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« 『神戸女学院 学報』166 | トップページ | 春の旅行(1)城崎 »

2013/03/19

「デーモン閣下の邦楽維新Collaboration デーモン閣下が三島由紀夫の楯を突く!」

20130316

●日時 2013年3月16日(土)18時~
●場所 横浜みなとみらいホール大ホール
●出演 デーモン閣下(朗読・歌唱)・松田美由紀(朗読)・ホリ・ヒロシ(人形舞)・三橋貴風ほか(尺八)・外山香ほか(二十絃箏)・黒船バンド(松崎雄一(編曲・キーボード)・雷電湯澤(ドラムス)・石川俊介(ベース))

三島由紀夫の生き様を大変興味深く思っているデーモン閣下が初めてステージで三島由紀夫作品を朗読します。邦楽使いの達魔(たつじん)デーモン閣下と尺八奏者三橋貴風が鮮やかに三島の美を奏で、尺八と箏による大合奏が情緒を描き、ゲストの女優松田美由紀と人形舞ホリ・ヒロシが華を添えます。アートとエンターテインメントの絶妙なバランスのうえに、ロックスピリットが跳ぶ、異次元のCollaborationをお楽しみください。
※上演作品は当日発表となります。

いったいどんな内容なのか?・・・チラシを見てもまったく謎の、デーモン閣下×三島由紀夫イベントに行ってみました。

チケットを取ったのがギリギリだったので席はかなり後方でしたが、舞台後方に大型スクリーンも設置されてて、よ~く見えました。

開演前に、デーモン閣下の声で、出演者や尺八・箏についても詳しく楽しく紹介され、かなり長めのMCで盛り上げてくれます。デーモン閣下と三橋貴風による邦楽維新が始まって今年が14年目。今回は、大ホール進出、複数による朗読、人形の加入、三島由紀夫と新しい試みがなされ、今日は古典より現代邦楽の名曲が流れるとのこと。

今回の朗読作品については、「昭和39年頃が舞台の作品」だと前説で「プチヒント」。
・・・ということは、「午後の曳航」だ! ご当地・横浜が舞台だしね。
(「午後の曳航」は昭和38年発表の作品なのに、なぜ39年と言ったのかは、後で明らかに)。

公式ページに、現在は当日の演目や曲目がアップされてますが、当日までは、「三島由紀夫の作品群の中から、今回どの名作を取り上げるのか、当日のお楽しみです」と謎めかしてあって、三島作品のオムニバスかな?とか、尺八なら「金閣寺」かな?などと想像してた。
「午後の曳航」だったとは。
邦楽のイメージで目くらましされてたけど、よいチョイス。元町、中華街、マリンタワー、横浜港、……会場を一歩出れば、作品で登場する場所がすぐですものね。。
(ちなみに、房子が経営している「舶来用品店レックス」のモデルは、元町の「ポピー」。
以前の記事にチラっと写真を載っけてます。別の「午後の曳航」ネタも。)

さて、いよいよ、開演。
三橋貴風の尺八が一曲演奏されたあと、閣下がおもむろに「三島由紀夫作 「午後の曳航」 第一部 夏」とアナウンス。
舞台上手に尺八が4人、下手に箏が5人、中央奥に黒船バンド(キーボード、ドラム、ベース)。そして、中央手前に、閣下と松田美由紀が椅子に座ってスタンバイ。

ここからは、本当に朗読が始まりました。

おやすみ
を言うと、母は登の部屋のドアに外側から鍵をかけた。火事でも起こったらどうするつもりだろう。もちろんそのときは一等先にこのドアをあけると母は誓っているけれど。……

・・・という感じ。
(ジェンダーで色分けするのもいかがかとは思うけど、でも、男声と女声がこんな色のイメージだった)。

デーモンが船員の竜二、少年・登と首領、さらに地の文章も。松田美由紀が登の母・房子。
登・首領・竜二が会話する箇所などでは松田美由紀が地の文章を担当するところもあるけど、大部分の箇所を朗読するのはデーモン。
最初の松田美由紀の「おやすみ」の一声だけの余韻がただようなか、デーモンの男声がつづいていく感じが絶妙。
声色を使い分けて、デーモンの朗読が実にうまい! 冷めた、あるいは無邪気を装う少年たちの声、なかんずく登と首領を使い分けるのに驚き。

作品の内容に合わせて、音楽も変幻自在。
冒頭は、横浜の雰囲気で、ジャズ。尺八や箏でグレン・ミラーでっせ。
少年の心を描くときには、邦楽の不思議な響きが。
BGMとしてばかりではなく、ミュージカルのごとく、時に歌も入る。

竜二が航海に出る前夜、房子との涙の別れの場面では、「わたし祈ってます」を熱唱。
これがまた、うまい。……で、歌い終わったあと、デーモンがボソッと「うますぎる」と自賛。
(こんなふうに、ところどころ、ボソッとつぶやくところが笑える)。

人形舞のホリ・ヒロシは、真っ白い衣裳をつけた少年の人形をもって、3カ所ぐらいで登場。
猫の解体で人形を使うのは、昨年見た蜷川版の「海辺のカフカ」と趣向が似ていたかも。
ビジュアル面で、舞台に彩りを添えてました。(音楽は黒猫のタンゴ)。

休憩のあと、「第二部 冬」。
大尾で、登が渡す(睡眠薬入りの)紅茶を竜二が飲んだところで、スクリーンの画面がぼけて、くっくりして、ぼけて、・・・そして消える。
竜二の意識を表しているのか。
音楽は、「さよなら」(♪もう終りだね、君が小さく見える、・・・さよなら、さよなら、・・・)。

・・・なんか、もうね、とってもよくできてました。
まったく先入観なしに見たけど、デーモンの朗読力、演技力、歌唱力がすさまじくて感嘆したし、1回きりの舞台を楽しみながらも傾注して作っていることがとても伝わってきた。
三島由紀夫の朗読がうまくて、引きつけられて、楽しい!
なにより、邦楽の概念が覆されました。こんなに豊かに種々の曲が奏でられ、心情表現ができるのだと。(恥ずかしながら、歌舞伎や文楽など以外だと、お正月のラジオ番組ぐらいでしか聴く機会がない)。

それに三島作品の大衆的な部分もよく見えてきた(「わたし祈ってます」の選曲がとにかく絶妙、それに、竜二と房子が泣く場面が多いことも改めて気づかされた)。
作品内に米軍の記述が多いことも。(三島作品のなかのアメリカ表象、やはり気になる)。
(そういえば、私、いままで忘れてたけど、学部の卒論では「午後の曳航」を扱ったのでした。「美しい星」・「午後の曳航」・「豊饒の海」のラインナップ。他の2作品では論文を書いたけど、「午後の曳航」はまだだ~。何か書けるかな?)

4101050155 午後の曳航 (新潮文庫)
三島 由紀夫
新潮社  1968-07-17


 

さて、ここまでで、休憩20分を挟んで3時間弱。朗読が終わった舞台では、出演者紹介のあと、松田美由紀とホリ・ヒロシが退場。
デーモンがふつうに一曲歌ってから、デーモン閣下と三橋貴風によるトーク。(〔※ 〕は私の感想です。。)

・デーモン:最後は、え、これで終わり?と思っただろう。睡眠薬を飲んで眠らされたところで、作品は終わる。三島はこれ以上は書いてないのだ。このあとどうなったか、あとは想像するしかない。
〔※実際には、三島は、結末の「誰も知るように、栄光の味は苦い」の続きを書いており、それを読ませてもらったことを、堂本正樹が回想している(『回想 回転扉の三島由紀夫』p.70)。
「 この後が七、八枚あったのである。猫の解剖に照応して、手術用のゴム手袋を嵌めた少年たちは、竜二の灰色の徳利のセーターを剥がし、英雄の全裸を解剖する。
 この部分を思い切って削除したため、作品は余韻を生み、構成はより引き締まった。三島文学の中でも、傑作と読んで差し支えない出来となった。しかし、『仮面の告白』の大皿に乗せられた美少年の裸体にナイフを入れる夢想を引き継いだ、この逞しい海の男の解剖も、独立した散文詩として保存して置きたかった気もする。」
……その解剖シーンの内容については、堂本本をお読みくださいませ。〕


・デーモン:戦後の横浜は米軍に接収されていた。基地問題では、いまの沖縄のようだった。接収が解消されたのが、竜二が20歳ぐらいの昭和25年10月で、現在、竜二は34歳なので、作品の現在は昭和39年だと判定できる。
 〔※このあたり、要調査。とりあえず、横浜市のページ〕。

・「午後の曳航」を提案したのは、三橋だった。
三橋:昨年までの小ホールから、今回は大ホールに進出することもあって、地元の横浜を舞台にした作品にしたかった。

・デーモン:今回はとにかく朗読原稿を作るのが大変だった。
まず文庫本を読んでも読んでも終わらない。そして作品をすべてWordファイルにするのが大変だった。〔※そのファイル、私、欲しい!〕
それを削ってダイジェスト版を作るのに、また苦労。これまでの作品は9000字。今回はがんばって削っても36000字にしかならない。で、2部構成にすることにしたが、それでも多すぎる。そこで、それまでタッチしていなかった三橋が適当に削ったが、「え、そこ削るの?」というところは、後でこっそりデーモンが復活させた。

・デーモン:なぜダイジェスト版を作るのが大変だったか。
三島由紀夫の文章は、同じ内容を比喩を変えながら何回も繰り返すのが特徴。それを削ってしまうと、三島らしくなくなる。
ストーリーを追うだけでは単なる猟奇的な物語になってしまう。三島らしさを残しながら、ストーリーが展開するように削るのに、苦労した。

・・・と、三島らしさとは何かをめぐる、面白いトークでした。
朗読用のダイジェスト版をデーモン本人が作っていたことにも感心。あの卓越した朗読は、そうやって読み込み、作り込んでいたからこそなのだと納得しました。

Photo

配布物のなかに「デーモン閣下の邦楽維新Collaborationの系譜」という一覧表も。
2000年の「山月記」(中島敦)を皮切りに、谷崎、芥川、古典作品などを各地のホールで開催してきたみたいだ。
なかでも、「春琴抄」は10回以上上演されている。
息長く活動してるのね。
→東京新聞 2013.3.10「デーモン閣下が「三島」朗読 尺八の三橋貴風らと競演」

今回の「午後の曳航」もよかったし、「金閣寺」も絶対うまくいく気がする。
デーモン閣下には、ぜひ他の三島作品もレパートリーに加えてほしいし、ツアーもしてほしいなあ。。
プロフィールに「広島県がん検診啓発キャラクター」と載せているのにも好感度アップ。

それにしても、私がデーモンのイベントに行くなんて、思いがけなかったわ。人生、何が起こるかわからない。。
昨年の宝塚(春の雪)といい、三島を軸に、面白いものが新規開拓できて、楽しきかな。

※3月20日(水・祝)早朝、デーモン閣下@広島の番組が放映されるようです。
ホリデーインタビュー 広島からもらった我が輩の“役割”  ~アーティスト デーモン閣下~

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