太宰治短編小説集「トカトントン」
太宰治短編小説集「トカトントン」
NHK BS2:10月15日(木)22:30-22:55
ディレクター・アニメーション:渋江修平
朗読:野田秀樹
太宰治生誕100年の今年は何本も公開されて話題になっていますが、これまでほとんど映画化されていませんでした。その理由は、やはり太宰独特の語りにあるのでしょう。ストーリーは単純で、語り(奥野健男いうところの「潜在的二人称」)で読ませるのが太宰。
映画化も、仄聞するところでは、かなりオリジナルな人物を登場させてサブストーリーを作っているようで、なかなか太宰作品そのままを映画化するのは難しそう。
その分、ラジオドラマや朗読には向いています。
中期作品など、口述筆記によって作られた作品もあって、朗読とは相性がよい。
オーディオブックやポッドキャストでもたくさんの作品が出ていて、私も通勤のお供にしています。
で、今回のドラマ。初日・二日目は見逃したのだけど、昨日の「きりぎりす」、今日の「トカトントン」となかなか面白い。
女性の一人称語り、書簡体と、いずれも一人称小説の二つを、朗読メインのドラマに仕立てていたのがよかったのでしょう。
昨日の高橋マリ子さんの「きりぎりす」も初々しくてよかった。
そして、今日の野田さん朗読の「トカトントン」!
敗戦後、希望に満ちて何かに夢中になろうとすると、とたんに「トカトントン」の幻音が聞こえてきて、虚無的・無気力になってしまう男の話。
野田さんの、「トカトントン」を聞いて「きょろり」となってしまうところの感じの声や、花江さんの女声が絶品。実によい。
もともと野田さんは、初期に「走れメルス」なんてタイトルからパロディの作品や、鎌倉七里ヶ浜海岸での心中を取り込んだりして、太宰への関心を明示していた。
その後の種々の経験を積んだ手練が朗読するのだから、うまいのも当然。
黒子の主人公や能面によって表現した人々、簡略なセットなど、ビジュアル面もよい感じ。
「トカトントン」の音の部分は読まないで字幕だけで処理していたのは、物足りない半面、むしろ想像できてよかったかも。
ただ時間的制約からか、小説を書く挿話が抜けていたり、文章も全般に省略されていたのが少し残念。全部聴きたかった。
これ、野田さんの全文朗読がオーディオブックに入ったら、絶対に買います!
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