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2009/10/14

映画「空気人形」

Kuukihingyo 自分へのご褒美で、久々に映画を見に行く。
迷った末に、「ヴィヨンの妻」はまたいずれ、と、「空気人形」の方へ。

於・シネツイン本通り
監督:是枝裕和
撮影:リー・ピンピン
出演:ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路、高橋昌也、余貴美子、岩松了、星野真里、丸山智己、柄本佑、寺島進、オダギリジョー、富司純子

「性欲処理の「代用品」」の空気人形が心を持ち、動き始めた・・・

ペ・ドゥナが、心を持ってしまった空気人形という、希有な存在になりきっていた。透明、ピュア、エロス。彼女の存在感なくば、成立しない映画だっただろう。

釘にひっかけて空気が抜けてしまった空気人形に、彼女が密かに思いを寄せている男・純一が懸命に口で空気を入れていく。
人の呼気で徐々にふくらみを取り戻していく空気人形が、実に官能的だった。

ARATAはじめ、周囲をとりまく役者陣もよい。
現実の女性との関係は「めんどくさい」と感じて人形を所有する男、世の中で生起する事件をすべて自分がやったと警察に出頭する老女、過食症のOL、加齢を怖れる女性、母を待ちつづける父娘、……。現代人は、みなそれぞれの心に闇を抱え持っている。
その現代の人間のもつ心の闇、影、空洞と、空気人形との対比が、この映画の大きな主題だ。

 〈〈 以下、ネタバレあり 〉〉

実は、途中までは、“現代のお伽話ね。やはり女が無垢な人形の役を割り当てられるんだ。徐々に人間社会を学習し、人々を癒していくのでしょ・・・” などと思いつつ見ていた。
だが、次第に周囲の人間たちが垣間見せる闇に、おやおやと思うようになり、(まあ、そりゃ、岩松了がただの善人のレンタルビデオ屋の主人をやるわきゃないわな・・)、「あなたのしたいこと、何でもしてあげる」と誘う空気人形に、背中向きのARATAが「本当にいいの? 君にしかできないことなんだ」と言ったときに、不安は頂点に。
“やめて~、あなただけはいい人でいてほしい”と祈るような気持ちだった。

純一のやさしさは、彼も心に空洞を抱えていたから。
空気人形が出あったときの彼は、世捨て人のようにすべてを諦めて生きているような風情だった。(空気人形が彼に惹かれたのは、所有者のようにむきだしの性欲と所有欲を自分に向けるのとは違った、純一の淡々とした空虚な表情にあったのだろう)。

おそらくは恋人の死によってできてしまった心の闇によって、純一は女の死と復活を望んだ。
何度も空気人形の空気を抜いては、息を入れて生き返らせることを繰り返す。
以前、しぼんでしまった空気人形に空気を吹き込んで蘇生させたあの官能的な出来事は、空気人形にとっても人の心を得る大きな出来事だったが、実は、余生のように生きていた純一にとっても、自分を揺り動かし心の底の願望を表層にのぼらせる貴重な体験だったのだろう。

その果てに、空気人形がピュアだったからこそ起きてしまった事件。
最初は何が起きたのかわからなかった。
結末にいたるまで、映画途中からの意外な推移・変質に少しとまどいながら、しかし、まざまざと現代という時代の空気を感じざるをえなかった。

是枝監督は、前作「歩いても 歩いても」も、リアルな中にもけっこう怖ろしいところがあって、やはりこういったテイストになるのか。。

ハッピ・バースデーの歌、誕生日ケーキ、ゴミ袋、映画、「きれい」という言葉、風、水、など、モチーフがとても有効に使われていた。
それにしても、えらく映像が美しいと思ったら、撮影は「春の雪」のリー・ピンピンだった。なんでこんなにきれいに撮れるのだろう。クリアで、他の絵とは別物のようだ。

---

予告で、「選挙」の想田和弘監督の「精神」がかかった。
夏に横川シネマでやっていて行きたかったのだけど、余裕がなくて。
今度はシネツイン本通りで上演とのこと(10月17日(土)~30日(金) 11:20~13:35)。
とても見たい。(でも、精神的にしっかりしている時に行かないと、ちとしんどそうではある)。

「年をとることが素敵なワケ」(どうする?40代からのファッション&生き方)にTBさせていただきました。

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コメント

NAGIさん、こんにちは!

私も「空気人形」を見ました。オダギリジョーの大ファンであることもそうなんですが、是枝監督のファンでもあるので。

NAGIさんの「おとぎ話ね・・・」のところからのご指摘。確かにそうなのかもしれませんね。私は、そういう切り口にいつの間にか慣れていて、男性目線の作品をそのまま見てしまう癖があるのかな、と改めて感じました。

でも、あのレンタルビデオ店で空気人形のおなかに空気を入れるシーンはすばらしく官能的でしたねえ。すばらしかったです。ぺ・ドゥナが穴から顔を出し、ビニールに空気を入れたり抜いたり・・・というアナログな苦労があってこそとのこと。創作過程の「商業的でない」情熱にも胸が熱くなりました。

長田弘の詩のところも好きです。

あとエンディングシーン。あのような終わりがなんとなく想定されるだけに、円環構造で閉じてほしくないと祈りながら見ていました。かすかにブラックで、そのなかに曖昧な可能性が感じられ、ほっとしました。

すみません!まわりにこの作品を見た人がいなくて、つい長文になりました!

また遊びに来させていただきます♪

Carinaさん、こんにちは!
いつも拝見してます。ほぼ毎日更新。素晴らしいですね。

オダギリジョーは私も好きです。「メゾン・ド・ヒミコ」「血と骨」「ゆれる」の系列もいいけど、「オペレッタ狸御前」だの「時効警察」だのの脱力系もいいですよね。「空気人形」では、一人だけ別空間にいて、美味しい役柄だけど、もう出来上がっている現場の空気感に合わせるのはやりにくい
だろうな、とも思いました。
是枝監督のは、「歩いても 歩いても」がさりげない日常の一日のなかに、一人一人の人生と心の襞が見えて絶品でした。このタイトルってあの歌だったんだ、しかもこんなに怖いなんて、という驚きもあって。いまやアベレージヒッターの阿部寛もやはりよかった。

「空気人形」のあの空気を入れるシーン、実に実に官能的でしたよね。おっしゃるとおり、本当に素晴らしかったです。そんなアナログな撮影だったとは、初めて知りました

そして、余貴美子さん演じる年配の受付嬢のことをCarinaさんが書いておられて、さすが鋭いなあと思いました。
(あれ、余さんだとはわかりませんでした。女優さんはすごい。このところ、「おくりびと」とか「ディア・ドクター」とか、いい仕事をしておられます)。
年をとるのは嫌だけど、どこかで折り合いをつけなきゃねと諦めつつ、でも抵抗もしたい私の内面を見せられているようで。
空気人形の年をとることが素敵だという感覚との対比のご指摘も、興味深かったです。

勝手ながらトラックバックさせていただきました。
こちらこそ、これからもよろしくお願いします!

こんにちは!トラックバックありがとうございます!

オダジョ。20代後半のあの奇跡的な美しさと演技力の時期(←おいおい。どこまで称える?)を過ぎ、少し迷っていますよね。俳優やめようかなあとか。「がんばれ。いっぱい迷って、やめちゃって農業とかしてもいいから、応援しているよ、その人生」というのがおばちゃんファンのスタンスです(笑)

庄野潤三氏の記事も興味深く、ぜひともコメントしたかったのですが、考えてみたら一冊も読んでいませんでした(爆)。

また遊びに来ますね。「ヴィヨンの妻」。浅野忠信。見たいです。

あ、申し訳ないのでお返事お気遣いなく。たびたびすみません!ではでは~(^O^)/

Carinaさん、こんにちは。

オダジョー、俳優をやめようかなどと思っているのですか。。
けっこう彼の作品は見ていますが、そういった事情に疎くって。そういえば「空気人形」も、ちょっと違った感じでしたね。
いま、うまーく40代まできて、油ののりきった男優がたくさんいますし、何とか迷いを乗り越えてもらいたいものですね。
岡山県人として(^_^)私も応援してます。

太宰生誕100年にのっかった映画の中では、「ヴィヨンの妻」は期待してるのです。でも、実際に見てみないとね。

コメントいただけるのはとても嬉しいです! 更新も気まぐれですが、またどうぞいらしてくださいね~。

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