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2008/05/26

三条会「卒塔婆小町」「葵上」

・日時:2008年5月24日(土)~30日(金)18:30/20:00、(27日は休演)
・場所:三条会アトリエ(千葉市)
・演出:関美能留
・出演: Aプロ:榊原毅、立崎真紀子、橋口久男
     Bプロ:関美能留、大川潤子、中村岳人
         (+渡部友一郎「葵上」)

いやあ、すごい舞台を見ました!
恐るべし、三条会、そして関美能留。

「卒塔婆小町」「葵上」といえば、三島由紀夫の『近代能楽集』のなかでも代表作と目され、最も上演される機会の多い2作です。私自身も、いろいろな舞台を見てきました。
が、これはすごい。とくに「卒塔婆小町」! こんなやり方があったのか!と驚きで一杯。緻密な計算による構成で、正攻法ではないかもしれませんが、裏ヴァージョンとしてピカ1。

「卒塔婆小町」は、現代の公園の時間と80年前の鹿鳴館の場面と、二つの時間が輪廻のように邂逅する構成で、皺だらけの老婆と若き日の小町の二重性とがそれに重なり合う。詩人の目にだけ老婆が美しく見えなければならないという主観をいかに表現するかという難問も含んだ作品ですが、それを映像との二重写しで処理していました。
芝居のなかに映像を利用する手法は少し前からどこの劇団でも使うようになってきてますが、こんな使い方は初めてで、それがまた憎らしいくらいはまっている。技量に裏打ちされた、見事な計算、という感じでしょうか。

何度も読んできた戯曲なのに、「卒塔婆小町」って、こんな風に作られていたんだ、という新たな発見があります。
戯曲の持っている可能性を、単に読者として読むだけでは気づかないそれを、イタに乗ったものを見ることで気づく。これが演劇を見る醍醐味でしょう。それを存分に味あわせてもらった「卒塔婆小町」でした。

こんな体験ができるから芝居を見るのはやめられない。
滅私奉公のあまり半年近くつづいていた鬱がふっとんじゃって、元気になりました。

私が見たのは、初日の5月24日(土)。「卒塔婆小町」がAプロ、「葵上」がBプロでした。
もう一つの方も見たかった。とくに、演出の関さんが詩人を演じる「卒塔婆小町」を見られなかったのが心残り。残りの公演に間に合う方は、ぜひぜひどうぞ。
東京から千葉まで片道1時間以上かけて行って、上演時間が一つ35分、間に休憩が50分も入って、もう一つが35分。正味70分ってどうなの?という感じですが、時間をかけても行く価値があります。30人ほどの観客で一杯になっちゃうアトリエ公演で、6日間だけというのが、また贅沢で、もったいない。

以下、ネタバレです。

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「卒塔婆小町」

客入れのときから、舞台下手にナチュラルな雰囲気の女性(老婆/小町:立崎真紀子)、右手に学生服の男性(詩人:橋口久男)、真ん中にスキンヘッドの男性(?:榊原毅)が立っていましたが、時間になると「じゃあ、やりましょうか」なんて声をかけあって、ゆるーい調子で開始。

舞台左右の椅子に男女二人が腰掛けて、手に持ったA3大の紙を見ながらセリフを読み上げ、朗読劇風の幕開け。(途中から「これは単なる朗読劇じゃあない。もしかして紙にセリフなんて書いてないんじゃない?」と思って注意してみてみると、やはり白紙でした)。
こうして始まった老婆と詩人の卒都婆問答の間、真ん中のスキンヘッドの男性は、手に持ったビデオカメラで自分の顔を写し、それがプロジェクタで舞台奥に映される。ときどきセリフらしきものを口ずさんでいるが、何なのかまったくわからず。
何だろう?とは気になりながら、老婆と詩人のセリフ語りがあまりにうまいので、そちらに集中。でも、やはり真ん中の男は気になる。何なの??

ベンチの恋人たちが退屈してケンカする場面にさしかかる。
3人だけでどうやって「卒塔婆小町」をやるのか、そもそも不思議だったのだけど、おもちゃのベンチに腰かけさせたぬいぐるみの蛙二つを、男がケンカしている風に動かし、それをスキンヘッド男がビデオで映すことで処理。
なるほどね。

そして、80年前、鹿鳴館の場面にさしかかる。
・・・と。
「それじゃあ、戻しましょうか」と、またしてもゆるーく声をかけあい、ビデオカメラをいじくると、中央のプロジェクタで映された映像が巻き戻されて、巻き戻されて、劇の開始場面まで戻る。

そして、驚いたのはここから。
実は、さきほどまで榊原(スキンヘッド男)が舞台中央で自分の顔を映しながら時々つぶやいていたセリフは、このあとの鹿鳴館の場面の小町のセリフだった!
プロジェクタに写されたスキンヘッド男の動く口と、立﨑の小町のセリフとが完全にシンクロ。橋口の詩人と、立﨑の小町のセリフ・榊原の顔で、鹿鳴館の場面が進行していく。

言ってることが、わかりますか?
冒頭からの現代の公園の場面で老婆と詩人の卒塔婆問答が繰り広げられていたあいだ、榊原は、80年前の鹿鳴館の場面を、ビデオに映しながら一人芝居していたわけです。詩人のセリフは頭のなかで演じて間合いをはかり、小町のセリフだけを口にしていた。
驚くべき技量!

こうして、スクリーンに映る顔はスキンヘッド男・声は女性である立﨑という二重性の小町と、詩人との、鹿鳴館の場面が繰り広げられていくわけです。
舞台を目で追いながら、頭の中では、現代の公園の時間の80年前に、鹿鳴館のシーンが行われていたのだ、という時間の二重性を思い知らされ、小町/老婆の二重性とがかぶさり、ゾクゾクしました。

さらに驚きは続く。
「もしあなたみたいな人に飽きたら・・・」のセリフのところで、最前の公園の倦怠期カップル(蛙)の映写にぴったりと来る絶妙さ。
そして最後、「小町、君は美しい」とついに詩人が宣言するところで、映像は消え(過去が現在に追いつき)、現代の時間だけに再び回帰していく。

もう見事としか言いようがない出来でした。戯曲が含んでいた可能性を見事に引き出した演出。そうしたアクロバティックな演出上のアイディアが実現できたのは、役者の卓越した技量あってのこと。
劇中の音楽は、平井堅の「瞳をとじて」だったけど、一曲まるごとかけていたその使い方も見事でした。

蜷川演出の「卒塔婆小町」も傑作だけど、あれも全く正当派の新劇芝居ではなく、「卒塔婆小町」は実験的な演出を許容する奥の深さがある戯曲なのでしょうね。

「葵上」

「葵上」の方もよい出来だったのだけど、「卒塔婆小町」の出来があまりに素晴らしかったので、ちょっとソンしているかも。
演出で印象深かったのは、冒頭から康子が舞台奥で眠っていること。劇の途中から、光が眠り、看護婦も目を閉じて立っていた。つまり、この作品には〈眠りの力〉が支配していることを示していて、この解釈には全く賛成。

ヨットは、葵が寝ていたフトンを見立てて。
ヨットのシーンで、康子と光がセリフをがなり立てていたのが、ちょっと遊びが過ぎたかな?
また、最初のあたり、康子が虫を追い払うようなしぐさをしながらしゃべっていたのも、解せなかった。(康子役の大川潤子さんは、雰囲気があって、好きなタイプです)。
葵が途中で劇場のトイレに入り、そこから「助けて~」とか言っていたのは面白かったし、窓の開閉などアトリエの空間の使い方もうまかったですけどね。
音楽は「オペラ座の怪人」でした。

★ ★ ★

そういうわけで、「卒塔婆小町」の方が鮮やかに計算された演出で目を奪われてしまったけど、「葵上」も含めて、とにかく役者たちのセリフ回しが見事。
三島のセリフをこんなにうまく語れる役者たちが揃っているというのは、本当にすごいことだと思います。
演出の関さんのインタビューで、三島の戯曲を上演するために結成された劇団だとのことだったけど、納得。
チラシに「絢爛なことを絢爛に感じない作品を作りたい」とありましたが、三島の舞台がこんな風に作り替えられるんだなあ。。

客席の後ろに書棚があって、三島作品の文庫本がたくさん置いてありました。
今年は『近代能楽集』全作品連続公演とのこと。秋の4作も期待できそうです。関東地方にお住まいの方は是非。

4101050147 近代能楽集 (新潮文庫)
三島 由紀夫
新潮社  1968-03


by G-Tools

私自身の論文は↓にあります。
・「卒塔婆小町」(20年以上前のもの(^^;;))
・「葵上」(2年前のもの)

----
〔追記〕トラックバックさせていただきました。

CoRich
眠気に負けずにお芝居を。
As Is Now -記憶装置の劣化に抗う試み

※CoRichの「観てきた!」によると、Aプロ、Bプロで演出を変えてきているんですね。
Bプロの「卒塔婆小町」も本当に見たかった!
以前の「班女・卒塔婆小町」のときとも、今回のAプロは違っていたみたいで、ソラおそろしい。

---
〔2008/6/4 追記〕

しのぶの演劇レビューさんにトラックバックさせていただきました。
「卒塔婆小町」Bプロ、「葵上」Aプロについての詳細なレビューを掲載しておられますが、本当に全く異なった演出だったのですね。すごく面白そうで、両方見たかったなあ・・と、拝読しながら身悶えしちゃいました。

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コメント

NAGIさんはじめまして。コメントとトラックバック、ありがとうございます。私のサイトからもトラックバックさせていただきました。
NAGIさんのレポート、詳しくて面白いです。自分がした体験でもあるのに、もう一度公演を見に行ったような感じがしました(なんせ私は記憶力に問題があるので...)。
私も蜷川版卒塔婆小町見ました。あれはまた絢爛豪華ですてきでしたね。でも三条会の卒塔婆小町は、別次元だなあ。
ところでNAGIさんは親指シフターなのですか? 実は私も!! 近代能楽集とは関係ない話でごめんなさい。なんだかうれしくなっちゃって。
また来ますね。今後もどうぞよろしくお願いします。

りかぞうさん、こんにちは。こちらこそ、コメントとトラックバックをありがとうございます。
たしかに三条会は別次元ですね。アトリエ公演で、あの人数で、あれだけのことができるなんて。演出と役者やスタッフの技量が卓越しているからこそなんでしょうね。榊原さん、私もファンになっちゃいました。
しかも、あのゆるさがたまらない。(トイレからの「たすけてー」は反則ですよね)。
秋の4作品もぜひ観たいのですが、私は広島なのです。東京に行くのも四苦八苦なのに、さらに千葉とあっては。でも、何とかしたいなあ。。

それにしても、りかぞうさんも親指シフターなのですか?! 親指シフト関係のサイト以外でお仲間に出会うことは珍しいので、とっても嬉しいです! 本当にこれからもよろしくお願いします。 

そうか、ここで教えて頂いていたのに忘れてました。オペラが典型ですが、台本という制約?を踏まえて、どこまで演出で新解釈を盛り込めるか、というのは近年盛んですね。三島脚本もそろそろ初演踏襲主義を乗り越えて、こういう演出が試みられる時代が来たと言うことなんでしょうか。あー、見に行けばよかった。

キンキン@ダイコク堂さま、こんにちは。
本当に。文学として戯曲・オペラを楽しむのもよいですけど、やはり上演されてナンボですよね。
三条会、お勧めでした。土曜に学会のあと千葉まで行ったのですが、別プロを見逃したのが本当に悔しい。月曜は仕事なので、日曜夜はどうしても見られなかったのです。関東在住の方々が羨ましい。。
また秋にあるようですので、その機会に。

この記事へのコメントは終了しました。

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» [舞台]三条会 アトリエ公演「卒塔婆小町」「葵上」 [As Is Now -記憶装置の劣化に抗う試み]
書きたい気持ちはあるのに、なかなか書けない。もっと、日々の食事のように、さらっと書けたらいいのになあ。 4月のアトリエ公演に味をしめ、先日、また千葉まで行ってきました。都営浅草線から京成線を乗り継いでの行程は初。JRで向かうより、車内は空いていてのんびりムー... [続きを読む]

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