映画「夕凪の街 桜の国」
映画といえば、6月末に、試写会で「夕凪の街 桜の国」を観たのだった。
絶賛するつもりは毛頭ないけど、フツーに佳作だと思った。
(映画「父と暮せば」のときにも書いたように、吉田喜重監督の「鏡の女たち」の違和感が強烈すぎて、あれと比べれば何でもOKのモードに入っているのかもしれない。)
基本的には原作に忠実で、「夕凪の街」と「桜の国」の二つのパートが有機的にからみながら展開していき、実写ならではの美しさもある。
「桜の国」のパートは、今の広島に暮らす者からみて、違和感なく、とても自然だった。
「夕凪の街」のパート。私が小学生の頃は、まだ元安川沿いに、いわゆる「原爆スラム」があった。週に2回、己斐から紙屋町にピアノを習いに電車で通う途中に見ていた風景の内実を、無知だった私は知らなかった。そうした痛い記憶をついてくる。
もちろん、原作も映画も、広島/日本の加害の歴史を描いていないし、叙情性が勝っているところは、とても気になる。原爆の惨状をリアルに活写することもない。
だが、日本の現役大臣が「原爆投下はしょうがない」と放言し、米特使によって「原爆は多くの日本人の命を救った」などといった発言がなされている2007年。今、作られ、見られてもよい映画だとは思う。被害すら風化しているのだ。戦争や原爆が夏の風物詩のように消費されることを警戒せねばならないが、「わかっているのは「死ねばいい」と誰かに思われたということ」という原作の訴えは、まだまだ必要だろう。
田中麗奈・麻生久美子の女優陣はよかった。
吉沢悠の「打越さん」もいい。「にごりえ」の結城朝之助じゃないけど、女の話をちゃんと聞いてくれる男はいいなあ、とつくづく思った。が、その打越さんが、「桜の国」で禿げ頭のオジサンになって再登場したときには、思わず苦笑。(田山涼成さん!)
試写会だったので、佐々部監督の挨拶があった。
広島での公開は、こわかったそうだ。(昔、つかこうへいの「広島に原爆を落とす日」公演のときに、稲垣吾郎もそんなことを言っていたなあ)。
色々な話をされていたけど、演出面では役者に涙をこらえるように指示したということ、また、映画の終わりに、作品の内容とは全く関わりのない流行歌手の歌をタイトルバックで流すのだけは絶対に避けたいと思い、それを通すことができた、と話していたのが印象に残っている。
ただ、「もはや漫画ではなく文学である」というコピーは、いかがなものでありましょうや・・・。
全国公開は、7月28日(土)から。
広島では、先行で、7月21日(土)から公開。
シネツイン2では、初日7月21日(土)12時の回上映終了後に、主演の田中麗奈・麻生久美子と佐々部清監督の3名による舞台挨拶アリ。(舞台挨拶の回は全席指定で、座席券は7月14日(土)午前9時30分より発売)。
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夕凪の街桜の国 こうの 史代 双葉社 2004-10 by G-Tools |
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