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2007/07/08

映画「選挙」

Senkyo 映画『選挙』
面白かった。ダンナに誘われて、あまり期待せずに見たのだけど、本当に面白い。
良質のドキュメンタリー映画は、何よりも能弁に、人と社会とを物語る。

2005年秋、川崎市議会議員補欠選挙に自民党公認候補として、落下傘出馬することになった山内和彦さんの選挙戦の様子をひたすらカメラは追う。
もともと自民党から最もほど遠い生き方をしていた山内さんと、妻さゆりさん。二人が、代議士や市議など選挙のベテランに教えられ、叱られつつ、自民党流のドブ板選挙に突入していく。過酷といえば過酷なのだけど、あまりにも日常と離れすぎていておかしい。
応援にかけつける大物議員たち。当時、絶大な人気を誇った小泉首相が来るところが、最大のクライマックス。(小泉は、直接には参院補選に出た元外相・川口順子の応援に来ていて、市議候補の山内さんは、街宣車の屋根に並んで立つことは許されず、同じ車の踊り場下で必死に手を振っている。川口の応援演説を済ませてアッという間に黒塗りの車で去っていく小泉。あとで、2回握手をしてもらった、と興奮して語る山内さん。微笑ましいさと、上下の対比の妙)。

この映画は、ジェンダー的にも面白い題材が盛りだくさん。

山内さんは、選挙の指導者たちから、さゆりさんを、「妻」と呼ばず、「家内」と言うように、と指導される。
この「家内」vs「妻」については、映画の中で何度も出てくる。山内さんの友人たちは、「今どき「家内」なんて、女は家の奥にいる、という発想だ」と呆れるのだが、選挙のプロは、「「妻」なんて、選挙の世界では変だ」と話す。
妻を「家内」と呼ぶことに違和感がある人間が、「家内」と呼ぶのが当然だという風土に入り込む、そんな一種のガリバー旅行記・フシギの国のアリス的な面白さが、この映画にはある。。
(「家内」と呼ぶのは、家内は「おっかない」と笑いをとるためだ、という説も紹介され、後で実際に市議がこのダジャレで演説会で笑いを取っていた。絶句・・)。

山内さんの妻・さゆりさんも、選挙期間中は、仕事を休み(有給休暇)、応援する。慣れない選挙カーに乗り、頭を下げて回るのだ。
その日の運動を終えて、車で帰宅する中での二人の会話が、またいい。

選挙を仕切る人たちに、「仕事をやめろと、言われた」とこぼす妻。
落選したときのことを考えると、とても仕事は辞められない。話しているうちに、さゆりさんは、「「総理大臣にでもなったら、仕事を辞めます」と言ってやろうかと思ったわよ」、「私の人権はどうなるの?」と激してくる。「人の言うことを気にするな」と、懸命になだめる夫。
・・・何だか自分たちを見ているようだった。
そして、二人が疲れ果てて帰るのは、選挙のために急遽借りた部屋。家具もほとんどなく、ゴミ捨てもままならない狭い部屋の、薄い蒲団で、しばし休む。

そうした、フツーの人が、フシギの世界に入り込んでしまったズレ。自らの意志で入ったはずなのに、見ている側には、何だか彼らが異世界に無理に投げ込まれてしまったような感じを持たされてしまう。苦心しつつも、ひょうひょうとフシギな役割をこなしているような面白さ。
(そういえば、山内さんの所作は、何だかザ・ニュースペーパーの面々が小泉のマネをしているような、コントのようなギクシャクした雰囲気があった)。

そうしたフシギの国に入り込んだ夫婦を、温かく、そして異化しつつ映し出すところが、この映画の素敵なところなのだろう。
ドキュメンタリーというのは、撮影する側とされる側との距離感が、最も肝要なのだと思う。想田和弘監督と、山内和彦さんとは、大学時代の同級生らしい。カメラを感じさせない自然さと、でも、ときに異化する視線もあって、絶妙だった。
(監督と山内さんの対談は、ここここ)。

見終わって、山内さんが今、どうしているのか、とても気になった。
山さんBLOG」によると、5月に市会議員の任期は切れ、立候補せずに、今は主夫をしつつ、全国を映画キャンペーンで回っている様子。
そして、夫婦の間には赤ちゃんが生まれたばかりで、さゆりさんは産休・育休中らしい。
そうした生き方も、映画で垣間見えた山内さん達らしいと納得。

そういうわけで、気分は、チラシにあった永千絵さんのコピーに最も近い。

──支持していない党からの立候補なのに、観ていてなんだか応援したくなったのは、夫婦の人柄!?

今日は一日、ダンナと、もしもどちらかが選挙に出たら・・・、という仮想話で盛り上がった。
(ダンナによれば、私はすぐキレちゃうので、全然ダメらしい。いやー、私だって、「家内」として内助の功をやりますよ・・)。

リベラルでありながら、保守政治のただなかに入り込んでしまった一組の日本の夫婦。懸命で、かつコミカルな雰囲気をもった、面白いドキュメンタリー映画です。

広島では、横川シネマにて、7月27日(金)まで。

B000WSQIEM 選挙
想田和弘
紀伊國屋書店  2007-12-22

by G-Tools

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コメント

こんにちわ、監督の想田和弘です。『選挙』をご覧いただきありがとうございました。「ゴミ捨てもままならない狭い部屋」という部分など、鋭い観察が随所にみられ、ニヤリとさせられました。フシギの国のアナロジーも面白いですねえ。こういうご感想が励みです。ありがとうございました。

想田監督ご本人がコメントをくださるとは! 光栄です。
「選挙」は、本当に面白かったです。授業のマクラでも、学生に強烈に勧めちゃいました。感想にも書きましたけど、撮っている監督(カメラ)と撮られている山内さんとの距離感が、絶妙ですね。
これからも監督の作品を見つづけたいです。

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