「ゆれる」
邦画づいてますが、早いうちに見たくて、行ってきました。映画「ゆれる」。
・原案・監督・脚本:西川美和
・出演:オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子、木村祐一、ピエール瀧、田口トモロヲ、蟹江敬三
完成度の高い作品。
田舎で家業を継いだ兄と、東京に出て成功した弟。
母親の法事で久々に戻ってきた弟の前に、兄のガソリンスタンドで働くかつての恋人が現れ、弟は彼女を抱く。翌日、3人で向かった溪谷の吊り橋から、兄と共にいた彼女が転落して死亡する。そして始まる裁判のなかで・・・。
事件と裁判の過程で、まじめで穏やかだったはずの兄の内なる狂気や怒りが表面化していく。ように見えるのだが、実は明らかになっていくのは、弟が健忘してしまっていた過去の記憶、体験や人間関係や感覚であった。
この映画の大きなモチーフの一つは、閉鎖的な土地や弟と父との確執、兄弟の微妙な関係によって変化していく人の記憶の不思議さ、その歪み(喪失・空白と回復の様)であり、観ていてゾクゾクした。極めてリアルな作品・映像でありながら、人の感覚の頼りなさと確かさといったマジカルなところも鮮やかに描きえていて、凄味がある。
場面としては、事故前夜、智恵子と関係をもった猛が古い家に帰宅して、後ろ姿を見せながら洗濯物を畳んでいる兄の稔と会話するところが印象的だった。平静に、お互いに腹の探り合いをしているこの場面は、あとで大きな意味をもって回想されることになるのだが、オダギリ・ジョー、香川照之の油の乗り切った二人の男優の、静かな対峙がいい。
結末も秀逸。バスを使った技法がにくい。(あのあと、兄は残っていたのだろうか?)
シネツイン1にて。10月6日まで。
* 智恵子の母親役で、青い鳥の天光眞弓さんが出ていた。どこかで見た人だと思つつ思い出せなかったのが、最後のクレジットによって気付いたとたん、名古屋や青山や、観た空間・時代を含めて舞台の記憶たちが蘇ってきた。。
* 西川美和監督は、広島出身なのですね。(最近、広島は、若手の有望な映画監督を輩出!)
その西川監督の第一作「蛇イチゴ」が、同じくシネツイン1にて、9月16日~22日上映。(21:10~23:05 のみ。800円!)
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映画館で西川監督自らが小説化した本を購入。
映画で観客が想像し補うしかなかった内面や状況が丁寧に描かれ、それが自分の心のヒダに何度も触れる。とくに智恵子の戦略に、あの場面はそうだったのかと深く納得させられた。
小説の技法としてはいま一つのところもあるけれど、(というか、監督が映画の演出プランを役者やスタッフに説明しているのを傍らで聞かせてもらっている感じ)、これまた佳作。
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ゆれる 西川 美和 ポプラ社 2006-06 by G-Tools |
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