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2006/09/23

杉村春子生誕100年記念講演会

Pict0241 杉村春子生誕100年記念講演会

・2006年9月23日(土)13時30分~16時
・広島市青少年センター ホール
・ 第1部:「杉村春子と音楽」水田マリ
      「ミニ・コンサート」川本秀史
 第2部:講演
  「杉村春子の女の一生」戌井市郎(文学座代表)
  「杉村春子の芸を語る」北村和夫(文学座俳優)

広島でこのような催しが行われるのは、杉村さんが広島市出身だから。
(杉村さんも、平幹二朗さんも、広島弁がセリフに出ないように苦労されたというのは有名な話ですよね)。

さて、私は、杉村春子の「女の一生」をナマで見たクチです。とはいえすでに晩年でしたし、「見た」ということに意味があるような、つまり歴史的作品を体験することができたということに尽きるような芝居でした。
だから、私にとっての杉村春子は、舞台俳優としてよりも、「東京物語」「晩春」などの小津作品や、新しいところでは「午後の遺言状」などの、映画女優としての印象の方が正直なところ強いです。それらでは、さすがに達者な、そして映画のなかに無くてはならない強い存在感を示していました。

そして、三島をやっている者としては、杉村さんといえば、「鹿鳴館」に象徴される文学座と三島の蜜月時代と、いわゆる「喜びの琴」事件による三島の文学座脱退の、二つの側面があります。そうしたお話が聞けるのかどうか、楽しみに出かけました。

今朝の中国新聞「天風録」に案内されていたためか、青少年センターは満員。
私は岩崎先生にチケットをいただいて行ったのですが、幕開けに実行委員長として挨拶されたのでビックリ。
戌井市郎さんのお話の聞き手としては、先日の講演(大学図書館職員の研修会)でお目にかかった土屋さん(司書にして、劇団員でもあられる)が登壇され、再びビックリ。

お話の方は、戌井さんのは、45分間のうち30分以上が戦争中の状況。御歳90歳ということだけど、かくしゃくとされていて、昔のことが滔々と出てくるといった感じ。1945年4月の「女の一生」初演のときには、空襲警報が鳴ると芝居を中断して客を外に出し、警報が解除になると、また中断したところから再開する、といった状況だったことや、人間関係のことなど、面白いお話が聞けました。(個人的には、森雅之さんの話がもっと聴きたかった・・)

が、ほとんど文学座前史といった感じで、この調子では三島まではとてもたどりつかないな、と思っていたら、突如話が飛んで、昭和38(1963)年の文学座の危機について。
1960年に中国に「女の一生」を持っていく際に脚本の手直しをしたこと、杉村さんが親中派であったことで、文学座が左傾したと見なされ、思想的な問題で中国公演の不参加者が出た。
そうしたことが機縁となって、63年1月に29名が退座して福田恆存らとともに劇団「雲」を結成。戌井さんは、これを思想問題もあったけど、若い力が「杉村春子劇団」には所属していたくない、もっと力を発揮できる場がほしいと思って出て行ったのだ、と世代の問題として解釈していました。
そして5月には、久保田万太郎が急逝。すでに森本薫も岸田国士も亡くなっており、三島は、文学座再建のために先頭に立って奮闘した。三島にとっては、福田一派に裏切られた、という思いが強かっただろうし、芝居らしい芝居を作るために、自分が支えねばと思ったのだろう。

そうしたなかで、「喜びの琴」事件が起きた。
執筆前に、三島さんが「文学座には共産党は何人いるの?」と聞くので、妙なことを尋ねるなと思い、「はっきりとはわからない」と答えると、名指しで「この人はどうだ?あの人はどうだ?」と尋ねてくる。どうも妙だと思っていた。
松川裁判の冤罪に材をとって作られた「喜びの琴」は、三島さんの芝居にしては辛口で、掃除婦のおばさんが一人出るだけで女性がほとんど出ない、明るいものが求められる正月にやるにはふさわしくなく思われた。NHKもこれでは中継できないと言ってきた。そこで、三島さんに、上演の延期と脚本の直しを申し入れた-断ってくるだろうと思いつつ-ところ、案の定、三島さんは直しを断り、そして、文学座は「思想上の理由で」上演「中止」したという一筆を入れさせた。そして、14名とともに退座。

・・といった風に、戌井さんは話しておられました。残った側、上演延期/中止を申し入れた側としては、なかなか言いにくいでしょうね。
(このあたりのことは、北見治一『回想の文学座』に詳しい)。三島にとっても、この事件は相当堪えたでしょうね。自分が背負っていくのだと力を入れていたところから、彼にしてみれば裏切られたのだから。彼のその後の行動や思想の動きにも、大きな影響を及ぼした事件であることは間違いないだろう。
橋本治は、三島にとっての杉村春子は「演劇界での母」に当たる存在で、その決別の大きさを考察していたけど、たしかに「サド侯爵夫人」のモントルイユ夫人が杉村さんで演じられた可能性を想像してみると、とてもスリリングだ。

「三島由紀夫」とはなにものだったのか「三島由紀夫」とはなにものだったのか
橋本 治

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戌井さんは、二つの件とも、杉村さんは旅公演中だったりして直接は関わっていないが、杉村が反対したから上演しなかった、という風にとらえられ、矢面に立たされたと言っていた。そうした状況の中にあっても、杉村さんは、何があっても前へ前へ進もうとする姿勢を見せていた、と強調していました。
聞き手の土屋さんが、新藤兼人さんの本に、分裂等を経ても「杉村さんは決して人の悪口は言わなかった」と書いておられますと水を向けると、戌井さんは「いや、悪口を言わないということはない」と受けていたけど、三島のことは、その後どう思っていたのだろう。

さて、北村和夫さんの方は、開口一番、杉村さんのことを思うだけで涙が出てしまう、本当に杉村さんについての話はキリがない、と、早くも涙ぐんでいました。
そして、「女房も子どももいる身でありながら、・・・・本当は杉村さんと結婚したかった!」と、冗談とも本気だともつかないことを真顔で、大きな声で激白。

その後は、「女の一生」の朗読やビデオ上映を交えてのお話。
「女の一生」に最初に共演したときには、杉村さんが45歳で北村さんは弱冠24歳。それから50年近く共演し、怒られ続けの人生だったとか。北村さんがされる杉村さんの口真似が、本当にソックリ。長く共に過ごしてきた時間を感じさせられた。
ビデオに映った二人はとても若く、新鮮。朗読の方は、ちょうどエピローグの部分だったこともあり、年季の入った北村さんの声にしみじみとした情感が。北村さんも、もう80歳なのですね。貴重な証言を聞かせていただきました。
杉村さんに最後に言われた言葉は、「あなた、死んだらおしまいよ。死ぬまでやりなさいよ」、だったとか。希有の女優ですね。

それにしても、やはりその後の杉村春子と三島由紀夫の関係が気になる。
大会実行委員長とインタビューの聞き手が知り合いだったのだもの。強引に頼み込んで、戌井さんや北村さんにお会いすればよかったかなあ、、とちょっと後悔の帰り道でした。

杉村春子 女優として、女として 杉村春子 女優として、女として
中丸 美繪


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女の一生―杉村春子の生涯 女の一生―杉村春子の生涯
新藤 兼人


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