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2006/06/01

「白夜の女騎士(ワルキューレ)」

・2006年5月7日(日)~30日(火)
・シアター・コクーン
・作:野田秀樹
・演出:蜷川幸雄
・松本潤(空飛びサスケ)、鈴木杏(眠り姫(おまけ))、勝村政信(その後の信長)、六平直政(大写真家(神様))、立石凉子(ポジ(神様のかみさん))、杉本哲太(巨人1(ライト兄)/右田刑事1)、高橋洋(巨人2(ライト弟)/右田刑事2)、山口紗弥加(ワル!)、持田真樹(キュー)、濱田マリ(レ?)、たかお鷹(ペニスの商人)
公式ページ初日レポートに舞台写真アリ)

野田戯曲の蜷川演出。それだけでも事件だが、20年前の遊眠社時代の初演を見た者としてぜひとも体験したい舞台だった。
さらに、初日から数日後に、扇田昭彦氏の劇評が朝日(2006/5/11)に出たのも、見たいという欲望に拍車をかけた。

  今回の蜷川幸雄の演出は画期的である。21年前に劇団夢の遊眠社が初演した野田秀樹の戯曲「白夜の女騎士」がまったく新しい、一種驚くべき形で姿を現したからだ。この新演出は、笑いと軽やかな身体性など、一般には「表層の戯れ」のドラマと見られがちだった 1980年代の野田戯曲を本格的に見直すことにもつながるはずである。(略)

  これは作者の野田自身には不可能な、先行世代の蜷川だからこそ出来た解釈であり、そのことによって、野田作品の底流に潜む市民社会批判のモチーフがあらわに浮かび出た。少なくともこの舞台以後、80年代の野田作品はこれまでとは違う姿で見えてくるのではないか。最近の蜷川演出の中でも、これは特にエネルギーを傾注した意欲作と言っていい。

ここまで書かれちゃね。
幸運にも当日券を入手(ン回のチャレンジ)

やはり、野田秀樹の演劇世界が私は好きだ~。イマ風の芝居と比べて、とても居心地がいい。
しかし、今回は野田戯曲でありながら、蜷川演出。もう20年前の記憶はほとんどないが、それでも野田ワールドが作り直されていることに、興奮を感じる。

遊眠社時代の芝居は、若さと躍動感にあふれ、猥雑な部分すら透明。言葉遊びに満ちたセリフはすっと耳を過ぎ去り、自由に解釈できる多義的な世界だった。基本的には、少年を素材に、ヒトが己の力を越えようとすることがテーマであり、神話性の色濃い舞台だったと記憶している。青みがかった透明で、全編ワーグナー、ワルキューレがかかっていた印象の強い野田演出。

対して、蜷川演出では、若い役者だけではなく成熟した役者がある程度いることもあり、スピードはやや抑えられ、言葉遊びやト書きすら舞台左右のスクリーンに写して念押し確認できる。1960~70年の闘争の時代を具現化した蜷川の戯曲解釈が全面に押し出されて一つの強固な世界を形成。3度のフライングのたびに真紅の照明で、旗がうちふられ、ワルシャワ労働歌がかかる。(ワルキューレの騎行は、多分カラヤン)。

野田ワールドへのノスタルジーは抑えがたいが、蜷川のワルキューレも、たいへんな力業ですばらしい。熱気と、舞台全体が一体化したようなチームワーク。
ケレンみたっぷりで、とにかく劇場に入ったときから、ワクワクさせられる。ステージ奥が開放されて、劇場外の駐車場や道を歩く人々が見える。開演前から客席や舞台にはキャストが歩き回っている。ステージの上には大道具が並べられ、それが片づけられると同時に突然開演。あっという間に、野田 ×蜷川ワールドへと引きこまれていく。

サスケの松本潤は、無垢さと少年の懸命さが出ていて、気持ちよかった。決して器用ではないが新鮮で、舞台上での輝きもあった。ただ、私が見た回(27日(土)ソワレ)は、一幕はまだよかったのだが、二幕早々から声が掠れてほとんど出ない状態。痛々しかった。(カーテンコールでは、土下座。声が出なかったことへのお詫びだと思われる)。後半セリフに詩情をのせられなかったのはとても残念だったが、それを動きで補おうとしてのことだろう、力をふりしぼっていることが伝わり、最後のフライングも美しかった。万全の状態のときに、再度役者として見てみたいものだ。

その後の信長の勝村政信は、さすがの安定感。ときに野田的なセリフ回しも入れつつ、舞台全体を支えていた。富士山のセットで、命綱でぶら下がりながらの松本とのからみは、力もいるだろうに、爆笑させられた。
眠り姫の鈴木杏も、キュートで、ジュリエットのときより数倍生き生きとしていた。

神様一行、ライト兄弟、ワル・キュー・レ?の三人組を含めて、とにかくアンサンブルがよい。声が万全ではなかった松本を、チームでバックアップしている気概が感じられた。開演前に、客席で蜷川さんが上に役者が乗った脚立を抑えていたけど、あれは、脚立を富士山に見立て、俺がお前たちを支えているから安心して動け、ということなのだろうか。

さて、扇田は、蜷川演出では、野田戯曲を「劇全体を過激派の闘争の物語として読み直した」と言う。挫折した青年が、「次世代の少年に変革への願いを託そう」とした物語だというのである。

  つまり蜷川演出は、社会を「乱世」にするために闘い、挫折していく青年の物語を、この戯曲の主軸として浮上させ、拡大したのだ。当時の野田がめくらましのように過剰な遊戯感覚でおおっていた地層の下から、蜷川は重要な水脈を掘り起こし、それを激しく噴出させたのである。

  こうして、サスケの棒高跳びは「高飛び」=国外亡命に重ね合わされる。そしてサスケがフライングで宙を舞う揚面では、学生運動のデモなどでよく歌われた「ワルシャワ労働歌」が流れ、地下から出現したヘルメット姿の活動家たちが、旗を激しく振って声援を送るという、野田戯曲にはまったく書かれていない大胆な演出が登場することになる。60年代に青春時代を送った蜷川の世代から、挫折した活動家たちに寄せる重い鎮魂歌である。

春に上演した「贋作・罪と罰」のパンフレットに、野田が書いた学生時代の体験。芝居のビラ配りをしていた自分の横でビラをまいていた学生が、過激派どうしの抗争で殺されるところを目撃したこと。野田のなかにあった、核となる体験の重さを汲み取って演出した蜷川、そうした意図を的確に理解した扇田。作・演出・批評の力のすごさを、見終わって改めて感じた。
野田戯曲の多義性を、ただ一つの強烈な解釈へと収斂させた蜷川演出については、好みが分かれるだろう。私自身は野田の芝居の世界が好きだが、深層をここまで可視化させたブリリアントな蜷川演出には素直に脱帽である。

野田戯曲だけであれば、先行世代を越えようとする少年に、たとえばアングラ演劇から越えようとする野田自身を見ることもできたかもしれない。
だが、蜷川は戯曲のなかの暴力性、日常を破壊しようとする力を取り出した。野田は、パンフレットで、自分には「市民社会への憎悪」があるし、おそらく蜷川もそうだろう、と述べている。(そこで、野田・蜷川と三島とが通底していくのかも。)最近の芝居がつまらなくなったのは自分の分を超えようとしないからだ、とも野田は言う。

ワルシャワ労働歌が流れる赤い照明の中、ステージに開いた穴から上半身だけ出したヘルメットの過激派が旗をうち振る上を、いつまでも飛翔しつづける白シャツのサスケの姿は、美しい。2度の失敗の末、分を超え社会を変革しようとして倒れた者たちの上を、その者たちの期待を背負って、飛び続けるのだ。
蜷川演出は、1960~70年(三島がいた時代だ)へのオマージュであるとともに、閉塞してしまった今だからこそ、逃走=闘争心でもって己の分を超え飛翔せよ、というメッセージでもあるのだろう。
美しく、熱く、気持ちのよい芝居だった。

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コメント

こんばんわ〜。随分前にコメントかかせていただきました、アリーと申します!
NAGIさん、「白夜」いかれたんですね〜。
元の作品を見られていた方の率直な感想がききたかったんで、うれしいです!
わたしのまわりにはオリジナル見たヒトが全然いなかったので・・・でもすごく残念な事に、あの声がでなかったソワレ公演を御覧になってたんですね〜。。。万全な状態の時に見て欲しかったです。
どんな公演でも1度しか見れないヒトがいるわけだから、本人も悔やんでも悔やみきれないところだと思います。
わたしも2回見れたんですが、言葉では表現できないような胸に突き刺さるエネルギーが充満した舞台でした。
わたしのブログにリンクはらせていただきましたがよろしかったでしょうか?事後報告でスミマセン。

アリーさん、お久しぶり。
リンクを貼ってくださって、ありがとうございます! (こちらからもトラックバックしたかったのですが、なぜか失敗(^^;;))
ラジオ番組での自己評価を読ませてもらって、面白かったです。本当に役柄に合ってましたね。

野田戯曲は幕切れ前に詩的な長ゼリフがあるし、たしかに声が出なかったのはとても残念。
ただ、普通だったら「金返せ!」と言いたくなるのに、(松潤への思い入れもあったからかもしれないけど)全体としてはいい舞台だったと心から思えるところが、不思議で素敵でした。

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    ワーグナー:名演集

    「すばらしい」の一言。夾雑物が何もなく、ワーグナーの音自体が見事に立ち上がってくる。