上下町へ-岡田美知代を訪ねて
上下町(元は広島県甲奴郡。一昨年4月から府中市に編入)に行って来ました。
田山花袋を専門にしている中国からの研究生がもうすぐ帰国するので、その前になんとか 約束が果たせました。
ほかに2人の学生と、女ばかり計4人、車でのんびりと。(ちなみに専門は、花袋・谷崎・芥川・三島。……つながりは、あるようで無いようで? 後ろの三人だけなら、佐伯彰一氏の『物語芸術論』だ!)
前日までの寒波・春の雪が嘘のように、ぽかぽかとよいお天気でした。
(上下町の観光案内⇒府中市、商工会、観光協会、中国新聞広告)
上下町は、花袋の『蒲団』に出てくる横山芳子のモデルとされる、岡田美知代の出身地。
上下駅裏の町民会館駐車場に車を駐めて、まず駅に行き、パンフレットや町歩きの地図を入手。それから白壁の町をぷらぷらと歩き、美知代の生家を改築して開館した上下歴史文化資料館へ。
『広島県の不思議事典』で、岡田美知代について簡単な紹介文を書いたのだけど、そのときには残念ながら時間がなくて上下町には行くことができずじまい。私にとっても念願かなっての訪問だった。
さほど広くはないけど、美知代関係の資料は充実。(←展示コーナーはもちろん写真撮影不可だけど、この写真は受付前にあり、撮影OK)。
1階は、上下の歴史等の説明と、ビデオ・コーナー。
上下町は、江戸時代に幕府の直轄地・天領で、石見銀山からの銀を山陽側に運ぶ石州街道の要衝の地。裕福な商人も多く、美知代の家の豊さも偲ばれた。
岡田美知代についてのビデオは、佐野浅夫さんがナレーション・出演しており、『蒲団』をめぐる状況と、その後の美知代の人生が的確にまとめられていて、よくできていた。
2階は、美知代の足跡をたどる資料展示や、花袋が上下の岡田邸に宿泊したときの和室や美知代の部屋など。
上京して花袋の内弟子だった美知代が、帰郷。結婚・離婚をへて、渡米。帰国後も、英語教師や創作・翻訳活動(「アンクルズ・トムズ・ケビン」の日本初訳「奴隷トム」など)をつづけた様子が見て取れる。鳥取に帰ってからは完全に筆を絶った尾崎翠とは対照的で、興味深い。
こうした美知代の活動が知られたのも、晩年の美知代と親交があり、美知代の活動を掘り起こした方(原博巳氏)の力があってこそ。
それにしても、「恩は恩、恨みは恨み」という、美知代の花袋への情は重い。自然主義系・私小説系の小説の、モデルとされる人物へのその後の苦悩の大きさに粛然とする。
『事典』では、「永年、『蒲団』のモデルというフィルターを通して見られてきた岡田美知代を、一人の女性・作家として復権させる試みが始まったといえよう」とまとめたのだけど、まさしく、美知代研究はこれからだ!
そうした点で出身地に資料館ができたのは大きい。何と入館無料ですよ。
あとは、せっかく蒐集された資料なのだから、図録ができることを切望します!
さて、資料館を出て、資料館の方に教わった旅館でお昼をいただく。名物のこんにゃくラーメンにも心ひかれたものの、みんな結局定食に。
それから、また町をぷらぷらと。
ちょうどひなまつりで、家々の軒先には餅花が飾られ、道行く人に見えるようにお雛さまが飾られている。それを見ながら静かな白壁の通りを歩く。上下のお雛さまは、一番上が屋敷のような屋根がついているのが特徴的だった。
大正期に建てられた芝居小屋・翁座は、中を見せてもらえるのは土日だけだったので、今回は外観だけ。
「映画と実演」の看板がいい。芝居と映画を兼ねているのが面白い。
ほかにも酒造資料館で上下人形を見せていただいたり(人形は、旧岡田邸の歴史文化資料館にもたくさんおいてあった)、江戸時代の商家である旧田辺邸を見学させていただいたり(何と家の中に、トロッコの跡が)、上下画廊を見学してお茶したり、のんびりと。
山中の盆地で、天領で、白壁があって、雛人形の展示もしていて、、、と、どこか日田に似た雰囲気なのだけど、もちろん、もっともっと小ぢんまりとしてひなびていて、どこか懐かしい町。
それにしても、資料館の係の方たちはもちろん、上下町のみなさん、とても親切。さっぱりとしていて人情に厚い。
町の歴史や展示物などについて、色々と教えていただいきました。ありがとうございました。
帰る前に、留学生のOさんに思い残すことはない?と聞くと、もう一度資料館に行きたい、とのことで、再度入館。またしても、ゆっくりと見て回りました。
資料館の方にお話を伺っていると、中島京子さんの『FUTON』をご存知?と尋ねられる。学生の一人は読んでおり、けっこう話題になりましたよ~とのことだけど、私を含めてあとの3人は知らず。『蒲団』の裏側のようで面白い小説だとのこと。
大学の図書館にも入っているらしいけど、早速帰宅して注文しました。届いたら読むのが楽しみ。
蒲団・重右衛門の最後 田山 花袋 新潮社 1952-03 by G-Tools |
FUTON 中島 京子 講談社 2003-06 by G-Tools |
そんなこんなで、行きの車の中では、帰りに果物狩りにでも寄るかなんて話をしていたのだけど、結局、上下の町に5時間近くいて、すっかり堪能しきって帰りました。
帰宅すると、なかばネタで買ったお土産の「つちのこ饅頭」が、思いがけず家族に好評。
パイ皮に白あんと栗が丸ごと一粒入っていて、懐かしくモダンな味でした。5個入りを買ったのだけど、娘に10個入り買ってくればよかったのに~と責められた。そんな・・・。また行きましょう。
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