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2005/11/22

最近の三島由紀夫本

もうすぐ没後35年目の憂国忌。
・・・ということで、5年前の、没後30年のときほどではないけれども三島関係の書籍の刊行が相次いでいる。(没後30年のときは、まさしく怒濤の如く、だった)。

備忘録を兼ねて、そのうちいくつかをご紹介。

440853482X 続・三島由紀夫が死んだ日  あの日の記憶は何故いまも生々しいのか
中条 省平
実業之日本社  2005-11-16


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まずはこの本から。

前作『三島由紀夫が死んだ日』が刊行されたのが4月下旬で、半年後に早くも続編の刊行。

キーワードは「多面体」かな。井上隆史さんと、島田雅彦さんが使っていたコトバだけど、語る人によって三島の印象が全く異なっていて、多面体としての三島由紀夫の姿が浮きだされていく感じ。三島と親しく同時代を生きていたはずなのに、細江英公氏と高橋睦郎氏の語る三島像はまったく違う。なんだか「サド侯爵夫人」で、舞台の上に不在のサドについて、6人の人物が全く異なった像を語っているような、そんな感じで、そこにはいない三島由紀夫についての印象が語られ、多面体としての三島像が浮かび上がっていく。
三島の死のときに子どもだった人たちも含まれていて、そういう点では、映画「みやび   三島由紀夫」とも近似した印象に仕上がっている。(本書にも、「みやび」の監督・田中千世子さんが登場している。それと、「春の雪」の行定勲監督も)。

印象に残ったところはいくつもあるけれども、十歳のときに週刊誌のコーナーで三島と対談した神津カンナが紹介した、「おじさんはもうすぐ死ぬけれど、そんなおじさんが、責任をもってあなたに読むことを勧められるのは、辞書だけです」という三島の言葉がずっと残っている。
死の一年以上前の夏の「おじさんはもうすぐ死ぬけれど」という言葉も衝撃的だけれども、子どもに読むべき本として辞書を勧めるというのも、いかにも三島的だ。

そういえば、三島は、高校生によるラジオ・インタビューでも、辞書を読むことを勧めていたのだった。(この「国語研究 作家訪問」は本当にオススメ。ぜひ一聴を! こんなのweb上で聞けるなんて、本当に便利になったものだ。私は、これがupされる以前に、CDを苦労して探しましたよ。)

4309976972 三島由紀夫―没後35年・生誕80年
河出書房新社  2005-11


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ムック本。
さきほどの「続・三島由紀夫が死んだ日」とも何人か執筆者が重なっている。
行定監督のインタビューを読むと、三島作品の映像化をほかにも考えているようで、興味深い。『鏡子の家』など、たしかに映画に向いていそう。『近代能楽集』の映画化なんて、実現したらすごいなあ。

「三島由紀夫単行本未収録コレクション」というのは、全集には載っているけど一般に目に触れる機会の少ないエッセイ類が再録。ほかに、三島×寺山修司といった懐かしい対談なども収録されている。
また、佐藤秀明さんの「三島由紀夫を知る18のキーワード」というのが、実に的確でコンパクトにまとまっている。

4166604775 回想回転扉の三島由紀夫
堂本 正樹
文芸春秋  2005-11


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初出は、没後30年のときの『文學界』の三島由紀夫特集(2000年11月号)。
このときには、本当に衝撃的だった。
映画「憂国」をともに作り、三島と濃密な時を過ごした堂本氏が、三島のことを語り残しておかなくては、という使命感で筆をとられたのだろう。「ブランズウィック」の頃のことや、「愛の処刑」についてなど、貴重な証言集である。


4166604759 三島由紀夫の二・二六事件
松本 健一
文芸春秋  2005-11


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これも文春新書。
評伝 北一輝』(全5冊)の著者が織りなす、三島由紀夫・北一輝・昭和天皇の3者のドラマ。
『豊饒の海』、とくに『奔馬』に関する考察が興味深い。

さて、新たに文庫化されたものとしては。

4309407714 英霊の聲 オリジナル版
三島 由紀夫
河出書房新社  2005-10-05


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4101054142 「三島由紀夫」とはなにものだったのか
橋本 治
新潮社  2005-10


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橋本治のは、やはり没後30年のときの「新潮」三島由紀夫特集(2005年11月臨時増刊号)に掲載され、2002年1月に刊行。
博論を書いたときの座右の書だった。付箋がビラビラ貼ってあって、戦友という感じ。

あとは・・・。
雑誌『シナリオ』2005年12月号に、映画『春の雪』のシナリオ(伊藤ちひろ、佐藤信介)が掲載。
シナリオでは、もう少し『豊饒の海』全体を見すえて書かれていたことがわかる。実際に上映された映画は、『春の雪』に絞って作られていた。
もともとのシナリオには、元暁の挿話や、松枝侯爵とみねの情事などが含まれていた。これらカットされた部分は、撮影されたのだろうか?  もしそうならば、映画がDVD化されたときには収録されていてほしいなあ。

ただ、最初に書かれた第1稿は、掲載されたシナリオよりも、もっと原作に忠実で4時間を越えるものだった、というのは驚き。監督や脚本家が三島の原作と苦闘しているさまがうかがえて、貴重な記録。
とくに、伊藤ちひろが、主要な人物を大胆に切らなくてはならない苦悩を描いている文章が印象深い。第一稿で一番丁寧に描いていたという書生の飯沼をカットしたというくだり。

最初の2書に載っている行定監督の発言も含めて、映画『春の雪』については、また稿を改めて書いてみたい。(そのときには、この部分は新しい記事に移して。・・・って、ホントに書くのか??)

4106425823 決定版 三島由紀夫全集〈42〉年譜.書誌
佐藤 秀明 山中 剛史 井上 隆史
新潮社  2005-08


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最後に、夏の刊行だけど、挙げざるを得ないのが新全集42巻。
前の41巻から1年ぶりに出されたこの巻は、緻密な年譜・著作・上演目録などで編まれており、今後の三島研究の基本文献となるのは間違いない。

私が初めて観た三島演劇は、劇団新芸術の「葵上」他の『近代能楽集』だった。猿楽町空間という小さなスペースでの公演で、芝居のあと、主宰の人や役者に、三島の戯曲の言葉について質問したりしたのを覚えている。このマイナーといってもよい公演が、上演目録に載っていたのには感動した。演出者の名前の活字をみたとたんに、20年前の夏の夜が蘇ってきた。
作成された山中剛史さんに山中湖でうかがったら、「ぴあ」などをしらみつぶしにあたられたのだとか。広島の劇団による公演なども載っているし、脱帽。たいへんな労作だ。

もちろん年譜も貴重。漱石年表に匹敵するのではないだろうか、というくらい緻密だし、一日ごとの記述の裏付け(出典)が明記されているのが、何よりありがたい。

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コメント

随分出ているんですね。新書や文庫は正月明けに帰国してからあさります。「春の雪」のシナリオは面白そうですね。

全集42巻は授業で見せました。

没後30年のときほどではないにせよ(あのときは、11月の1カ月だけで単行本15冊出ましたから!)、多いですよね。発注したものの未着でまだ読んでいない本は、ここでは紹介していませんし。
それだけ三島文学はまだまだ魅力があるのでしょう。

今朝の朝日にも、来月出る全集補巻のことなどが載っていました。

問題はこれらをどう使うかなんですけどね。
(「おまいらががんばれ」とか言われる?)
没後30年のときのユリイカの特集とか堂本さんの論とかをうまく使った論もまだ少ないし
私の認識ではすべてにおいて20年前のユリイカの特集の水準以下で止まっているというのが率直な印象。だから5年前に研究動向で書いたことを撤回する必要はありません。
 三島がこの有様だから他の戦後派の作家はまだ「読まれて」すらいませんね。戦後史再考が時ならぬブームだからそのうちみんな飛びついてくるでしょう。

こんなのがありましたよ。
http://media.excite.co.jp/book/game/004/

私はゲームをしないのでよくわからないところもあったのですが、「金閣寺」についてのおしゃべりは面白いですね。
最近、平野啓一郎も金閣寺論を書いてました。

ゲーム好きの学生さんに奨めてあげてください。
「三島はシナプスが多い」というのは笑いました。確かにそんなところがある。
「女神」なんて完全に育成ゲームですものね。

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» 脱力靖国&憂国忌 [佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン]
靖国神社に参拝し、11月25日の憂国忌に行く。憂国忌の会場は神社の大鳥居から九段を下りた九段会館大ホールだ。通常は同じ会館の小ホールで行われていたが、今年は三島由紀夫生誕80周年、自決35周年の節目でもあり、映画「春の雪」の話題性もあって大ホールでの儀となった。....... [続きを読む]

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