映画「みやび 三島由紀夫」
・監督:田中千世子
・出演:平野啓一郎、関根祥人、野村万之丞、ラウラ・テスタヴェルデ、バログ・マールトン、靳飛、ホイクール・グンナルソン、出雲蓉、岡泰正、松下恵、坂手洋二、柳幸典
・74分
→予告編はこちらから、コメント等はこちらに。
ユーロスペースで、映画「みやび 三島由紀夫」を見る。
広島で上映するとすればここらあたり?な横川シネマでも今のところ今後のラインナップに入っていないようなので、東京に行ったのをよい機会に。
位置づけとしては、ドキュメンタリー映画ということになるのだろう。
テレビ等で三島由紀夫のドキュメントがあると必ず登場するような、生前の三島と仕事の上での交際があった人たちは出てこない。10~50代の、現在活躍中の役者・小説家・演出家・学者等(外国人も、英仏ではなく、イタリア、ハンガリー、アイスランド、中国の作家や学者など)が自分の三島観を語る。
当然、三島への賛辞ばかりではなく、しかし、一人一人の三島への今の時点の思いが伝わってくる。
そうしたインタビューの中に観世流シテ方関根祥人の「清経」の能舞台や三島の写真が織り交ぜられていく。
最初は、なんでこんなにバラバラの人たちのインタビューを集めたのだろう、と思っていた。
だが、美術家の柳幸典が言っていた、三島由紀夫が死んだことをブラウン管で見ていた自分が今彼の死んだ歳になっている、時々自分が創作をしていく上で彼がひょこっと顔を出す、自分にとって喉にささった気になる小骨のような存在だ、という言葉。
それが映画の世界を体現しているのかもしれない。一人一人の喉の小骨の感触が語られているのだ。
能楽師の関根祥人と狂言師の野村万之丞は、三島の長女・紀子と学習院の同級生。(ということは、私とも同級だということ。私は早生まれなので、紀子氏の方が1歳年長だけれども)。二人とも、三島は、同級生の紀ちゃんのお父さんとして自分の前にいたと語っていた。
野村万之丞は、学習院で紀子や皇太子と同級生だったときに三島が戯曲を書いて、瑤子夫人が主役で自分の母親がコーラスなどをやった芝居が最初の出会いだと語っていた。そして、三島の自決の日のことを、「紀ちゃんが小学校から泣きながら連れて帰らされた翌日、某新聞に例の首の写真が出て、それは子ども心にショックだった」と語っている。
万之丞の話すのを聞きながら、今まで想像したこともなかったのだけど、10歳の女の子が、父が死んだ、それも容易ならざる死であるらしいと聞かされて、泣きながら学校を早退する光景が浮かんだ。それを見ていた同級生の男の子の姿も。私もぼんやりと覚えている(というより、自衛隊市ケ谷駐屯地を俯瞰したテレビ画面がかなりハッキリと目に浮かぶのだけれど、それは後で作った記憶のような気がしてならない)三島由紀夫自決の11月25日に、自分と同い年の女の子の上にそうした出来事があったのだということ。それを初めてリアルに、そして自分におきかえて想像した。
万之丞はまた、学習院初等科の講堂の額の前で、三島もこれを見て入学したはずだとも言う。そして、「仮面ほど正直なものはなく、人間の顔ほど嘘つきなものはない」「三島さんは仮面的な人だ」といった発言も映画の中でしていた。
その野村万之丞も、豊かな才能で幅広い活動をしていたさなかの昨2004年、三島より1歳若くして病死している。
演出家・坂手洋二の「楯の会は自意識が強すぎて、演劇的な観点では見られない」「自分は、近代能楽集は買っていない。能などの古典芸能を現代劇の中に入れるということでは賛同するけれども、ストーリーを借りてくるといったのとは異なった在り方があるのではないか」という言葉も印象深い。
あるいは、三島の死に際して募集された作文が受賞して本に掲載された学芸員の岡泰正が、30数年をへて三島の享年を越えた歳になって母校で三島を語り、かつて自らが書いた作文を朗読する姿。
楽しそうに三島文学の印象を語る中国人学者の靳飛。
妻を殺して自殺したハンガリー人作家チャートと三島との類似を語るバログ・マールトン。
『金閣寺』や『豊饒の海』の絶対と相対のあわいを語る平野啓一郎。
・・・などなど、それぞれの喉の小骨が提示されていく。
その中で、作品としては『近代能楽集』に言及する人たちがかなりいた。このあたりも今後の課題か。
さまざまな出自の人々が三島を語る姿。学習院、金閣、円照寺といったゆかりの場と海。入水自殺した平清経の亡霊が妻に入水した時のことを語る修羅物の能「清経」。幼時からの三島の写真。
映画は必ずしも整理しきれていない印象もあるものの、それらがシャッフルされてスクリーンに写されていくのを見ていくうちに、世界のいたるところに汲み取るべきものはたくさんある、三島研究・追求はまだまだこれからだという思いを強くした。
それにしても、こんな地味な映画なのに、ユーロスペースの100席あまりは満席。
開場時間まで入り口で並んでいたとき、前にいた大学生ぐらいのおしゃれな男の子はずっと文庫の『禁色』を読み耽っていた。
現在、東京・大阪で公開中。11月からは名古屋・京都でも。
((「みやび」のパンフを買うついでに、併映の「空中庭園」のパンフレットも購入。
原作者の角田光代が劇場用パンフ限定で続編を書いたもの。「空中庭園」については、春の講座でも扱ったので読むのが楽しみ。))
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