映画「ヒトラー 最後の12日間」
「ヒトラー 最後の12日間」を観に行く。
2時間35分の長さを感じさせない重みだった。
ヒトラーの個人秘書の目から、地下要塞のなかのヒトラーや周囲の人々の最後の様子が描かれる一方、ベルリンの市街地でおきていること(足りない物資。少年たちが民兵に志願し、民兵にならない人々はSSによる粛清が行なわれるといった悲惨な状況)もカメラは追う。おしよせる負傷者の手当てに命がけで向かう軍医の姿も。
かたや、要塞の中では、都合のよい情報によって妄想に踊らされ、あるいは疑心暗鬼にかられるヒトラー。
敗戦まぢかを実感し、酒に溺れる側近たち。延命策を考え、ヒトラーから逃げていく側近。敗戦後も自決する将校たち。
なかで衝撃的だったのは、ゲッペルス夫人が我が子6人を毒殺する場面。
まず睡眠薬で眠らせるのだが、小さな子たちは素直に飲むけど、一番大きな女の子はおかしいと感じて拒むのに、無理やり飲ませるのだ。そうして眠った子どもたち一人一人の口に彼女は毒薬のカプセルを入れ、かませる。毒薬をかませるときのカチリという音・・。その死を確かめて、毛布を顔までかぶせていく。
彼女は、「非ナチズムの世界で子どもを育てることはできない」と言う。だから我が子を手にかけるのだ。
そこには、子どもは独立した人格であって、子どもには子どもの未来がある、などという思いはかけらもない。自らの判断は絶対に正しくと思いこみ、そして自分が子どもの所有者なのだと信じ込んでいる恐ろしさ。
まさに「軍国の母」であり、狂信的な、と今の我々の目には映るけれども、日本でも敗戦の色濃くなった沖縄や植民地で、我が子を殺して自殺する人々がいた。あるいは、お国のために立派に死んでこい、とわが子を送り出す母親も。
決して人ごとではない。
今の私には、絶対に娘を殺すことなど考えられない。この正気をいつまでも保ちつづけなくては。
少年たちが自衛組織を作って守ろうとする国だが、国の最高指導者たちは、「戦時に市民などいない」と言い放ち、国民の犠牲は顧みられることなく見殺しにする。国民自らが選んだのだから、自業自得なのだと。
あと数日でも早く降伏していれば、ムダな血をどれだけ流さずにすんだことか。だが、無条件降伏などできないというメンツにこだわって、ずるずると、どうしようもないところまで延ばし続ける。(書けば書くほど、戦中の日本に似ている)。
全体主義のなかでは、家族も国も、子どもの未来など考えはしないのだ。
映画の最後、戦後を生きた年老いた女性秘書本人が登場し、地下要塞の中にあって真実を見ていなかった/見ようとしなかった、かつての自己を反省し、若かったことは言い訳にならないと語る。
その彼女の姿が、いま現在を生きている私たちと重なっていく。
サロンシネマは大入り満員で、入場券を買い求める長い列が。
広島市内では1館のみ上演だからだろうけど、固いという先入観をもたれがちな映画にこれだけ観客が入るというのは、とにかく喜ばしいこと。もっと上演館があってよい作品だと思う。
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1942年にヒトラーはミュンヘン生トラウドゥル・ユンゲを秘書として雇う
このトラウドゥル・ユンゲの目から ヒトラー最後の12日間が語られる
1945年ドイツ劣勢のベルリン その地下壕にヒトラーは住まう
そして多くの側近らと共にナチスドイツの最後が訪れて行きます
史実として淡々と映画は進み戦争における人の狂気、悲惨さ、無意味さを
静かに冷静な脚色で進めていく映画です
あえてコメントをする必要は無いと思います
ドキュメンタリーのように俳優たちがその状況を... [続きを読む]
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「ヒトラー 最期の12日間」
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ヒトラー役はブルーノ・ガンツ。
そこまで残虐なシーンがあるわけでもない。しかし、観客に何かしら大きなショックを与えるのはなぜだろうか。ドイツが陥落するのは火を見るより明らかなのに、かたくなに徹底抗戦を主張するヒトラー。自分の戦略、指導力、カリスマ性は未だに衰えていないものと信じて。
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映画『ヒトラー 最後の12日間』
(原題:DER UNTERGANG/ 英語版:THE DOWNFALL)
2004年制作、2005年上映
配給 : ギャガ・コミュニケーションズ
監督 :オリヴァー・ヒルシュビーゲル
製作・脚本 :ベルント・アイヒンガー
出演 :ブルーノ・ガンツ/アレクサンドラ・マリア・ララ/コリンナ・ハルフォーフ
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投稿: セミ玄人 | 2005/08/15 00:40
セミ玄人さま、コメント&トラックバック、ありがとうございます。
埼玉ではシネコンでやっていて、かなり入っているのですね。さすが首都圏。若いカップルが多かったというのもよいなあ。
広島では、中高年のカップル?やグループが多かったようでした。
投稿: NAGI | 2005/08/16 07:02