「ヒトラー」つづき
昨日のつづき。
敗戦から60年。
数日前、ついに杉並区が「つくる会」教科書使用を採択してしまった。
危ない時代に入ってきているからこそ、幅広い層に見られているというこの映画を、より多くの人が見ることで、戦争をしない/させない思いが高まればいいなあ、などと素朴に思ってしまう。(でも、こんなになったらヤバイよ、という素朴な思いこそが、「戦争のできる国づくり」などというまやかしを見抜くための最大の力じゃないだろうか。)
映画「ヒトラー」は、たしかにホロコーストなどヒトラーの具体的な加害行為は描いていないけれども、それはヒトラーを美化しているわけではなく、あくまでそういった加害性は観客がすでに十分にもっている常識だという認識のもとに、滅亡へと向かっていく最後の日々を描いていると思う。
その「自国の加害の常識」に相当する部分が、日独の大きな違いなのだろう。
ドイツと日本とはメンタリティが似ている。(女に母性を押しつけるところなども含めて。女性学ではよく知られていることだけど、少子化をストップさせつつある先進国の中にあって、日独伊の三国が例外的に少子化が進み続けている。少子化対策として女を家庭に戻そうとしている保守派は、完全にそのあたりを取り違えている)。
国民の犠牲を顧みることなく自らのメンツにこだわってずるずると滅亡への道を進み続けた指導者といい、互いに監視しあう五人組的市民社会といい、子どもを道連れにする親たちといい、近似した精神性・国民性を感じさせられる。
でも、日本では、たとえばこの夏「アウシュビッツ」を5回にもわたって特集放映する(そのこと自体はもちろん評価できるのだけど)が、かつて自国に関する女性国際戦犯法廷は改竄しちゃうように、他国の戦争加害は安心して報道し鑑賞するけれども、自国については圧力に屈して/あるいは自己規制して、腰が引けてしまう。自国の真実から目をそらしてしまう、どうしようもない弱さが私たちにはあるのではないか。
(孔子の戯言さんが示されるように、「ドイツでは国や国民は悪くない、ナチスとヒトラーが悪いのだからと、その責任は完全に転嫁されている」という側面もあるにせよ)。
そういう点では、映画「ヒトラー」を自国の上に重ねて見るだけではなく、日本版の「ヒトラー」に相当する作品が出てこなくてはならないのだろうな。でも、タブーはあまりにも大きい。
「電車男」でふつうの男の子の社会化の難しさを実感させられたけど、「ヒトラー」では指導者層の「男らしさの病」を思い知らされた。そして、女が「母性」を信じ込まされることの恐ろしさも。
加納実紀代さんや若桑みどりさんらが明らかにしているように、戦争とジェンダーとは密接な関係があるのだ。
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天皇制とジェンダー 加納 実紀代 インパクト出版会 2002-04 by G-Tools |
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戦争とジェンダー―戦争を起こす男性同盟と平和を創るジェンダー理論 若桑 みどり 大月書店 2005-04 by G-Tools |
もう一つ、三島由紀夫にもヒトラーを扱った戯曲「わが友ヒットラー」(1968=昭和43年)がある。
作家自身が「対をなす作品」だという「サド侯爵夫人」は再演を繰り返しているのだけれど、「わが友ヒットラー」の方は上演も少なく、残念ながら私も実際の舞台は見たことがない。(三島が本読みをしている貴重な録音が、『決定版 三島由紀夫全集』第41巻のCDに収められている)。
作品自体は、ヒトラーが国民を瞞着して全体主義を拡大していく契機となった事件を扱っていて、映画とはあまりリンクしそうもないけれども、日本人作家の描いたヒトラーということで、いちおうご紹介。
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サド侯爵夫人・わが友ヒットラー 三島 由紀夫 新潮社 1979-04 by G-Tools |
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» ヒトラー・最期の12日間 独裁者だって大変なのよ……。。 [Blog・キネマ文化論]
●ヒトラー最期の12日間を渋谷シネマライズにて鑑賞。 1942年、トラウドゥル・ [続きを読む]
>>かつて自国に関する女性国際戦犯法廷は改竄しちゃうように
判決:被告NAGIが原告peace1941に対して暴力行為を働いたことを認めます
あ、これは「国際男性法廷(仮)」の裁判結果なんです。この裁判では被告に弁護士はつきません。このコメントを削除することは裁判結果の隠蔽です。
っとこんなこと書いたけど、その国際女性戦犯法廷はこれと同レベルなんだけど・・・
こんなむちゃくちゃな内容をそのまま放送するなんてメディアとして許せないんじゃない?
それでもまだ「改竄」っていうなら例えば、上述のようななんちゃって裁判の結果(あなたが有罪だという)を全国放送してもいいってことですよ。
投稿: peace1941 | 2005/08/15 10:16
peace1941さま。
自国の歴史への処し方について、身をもって証明してくださり、ありがとうございます!
法廷についての評価は平行線をたどるだけになりそうですので、ひとまずおきましょう。
少なくとも圧力があり、その結果として番組が改編されたのは、(当事者たちは逃げきろうとしてますけど)、傍証がありますよね。
投稿: NAGI | 2005/08/16 07:10