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2005/08/27

劇団うりんこ「弟の戦争-GULF-」 

otouto0

●2005年8月26日(金)18:30-20:30
●広島市南区民文化センター
●原作:ロバート・ウエストール、訳:島次郎
●脚本・演出:鐘下辰男
●中嶋稔(トム)、長谷川真由(フィギス(アンディ))、西尾栄儀(父親)、青山知代佳(母親)、三雲一三(ラシード)

子どもコミュニティネットひろしま(旧おやこ劇場)の例会で、劇団うりんこの「弟の戦争」を見る。うちはキッズシアター(低学年)会員なのだけど、ユースシアター(高学年)例会のこの作品はぜひ見たくて、乗り入れで鑑賞。
重い作品で、娘にとってはかなりきつかったと思うけど、でも、見てよかった。

小さかった頃、トムには「フィギス」という空想上の友だちがいた。
3才の時、弟が生まれた。トムは弟を「フィギス」と呼んだ。弟は心のやさしい子どもだった。弱っている動物や飢えた難民の子どもの写真を見ると「助けてやって!」と言った。人の気持ちを読み取ったり、遠くの国の人々と交信する不思議な力も持っていた。

ある日、弟は奇妙な言葉を喋りだし、自分は少年兵ラティ-フだと名のった。最初は夢の中で、あるいは入眠のような形で、時々、「向こう側」へ行っていた弟から面白半分に、トムは話を聞き出した。 弟はどんどん、少年兵ラティーフの世界へのめりこんでいった。

「向こう側」では戦争が始まっていた。弟の体は「こちら側」にありながら、心は戦場にあった。もがき、苦しみ、命さえ危ないところまで、追い詰められていく弟。

しかし、典型的な家庭の居間は安全であり、まるでゲ-ムのように、テレビには戦争が映っていた……。 フィギスは13才、1990年のことだった・・・・
子どもコミュニティネットひろしまHPより)

工事現場の足場のようなむきだしの鉄骨、中におかれたパイプで作られたテーブルや椅子といった抽象的な舞台装置。中央と足場におかれたいくつかのモニターに湾岸戦争の光景が映される。

工事現場の重機のガガガガ・・というすさまじい音が、空爆や地上の銃撃戦の音と重なり合う。工事用のヘルメットも、兵士のそれと重ね合わされ、ラグビーの試合で、相手チームに対して「叩きのめせ!皆殺しにしろ!」という雄叫びも、戦争での銃をもった叫び声と重ねられる。はっきりとついているはずの日常と戦争との境目の曖昧さ。

ロバート ウェストールの原作を、THE・ガジラの鐘下辰男が脚本化・演出。
公演のあと、30分程度、鐘下さんのアフタートークがあり、見えてきたものが多かった。
(それにしても、こういう企画があちこちであるといいなあ。もちろん、解説なんかしたくない、完成した芝居を見て判断してほしい、という作者・演出家もいるだろうけど)。

ともかく鐘下さんが強調していたのは、現在の日本は、戦争を情報としてはわかっている。戦争の悲惨さも悪であることも教育されて知っている。だが、それは単に知識として知っているだけではないのかということ。それを演劇によって、ナマのものとして体験してほしいということだった。

テレビでは、実際の爆撃の音や臭いはわからない。それを感じてほしい。
父親の試合を外側から見ている限りではカッコいいラグビーも、自分が内側で実際に試合をすると痛さ、怖さがある。そういった外でみていたらわからなかった内側のコミュニケーションを、登場人物が体験していくと同時に、観客が体験していく。

原作は、弟がフィギスをなくし、アンディに戻ってしまうところで終わる。が、劇は、その後を描く。兄のトムが弟の経験を語り続けるのだ。
ラストを原作とは変えたのは、現在を追おうとしたからだと言う。湾岸戦争の開始が1990年、原作が書かれたのは1992年で、原作者はその1年後に亡くなっている。つまり、原作者は現在のイラクの状況を知らないまま亡くなった。
上演される今は、2004~5年。湾岸戦争時に15歳だったトムは30歳になっているはずで、では、今彼はどうなっているのかを想像した結果、語り続ける兄の姿が出てきたという。

なるほど。それで役者の年齢と合致した。
トム役の中嶋さんはとてもうまい役者さんだったのだけど、正直なところ、15歳にはとても見えず、どうしてもっと若い役者を使わないのだろう、劇団の人材の事情かもしれないけど不釣り合いだ、と観劇の間、違和感を抱いていた。その後のトムの姿を描いているということならば納得できる。

フィギスに代わって戦場の非人間性を語り続けるトムは、狂者として病棟に閉じ込められてしまう。だが、ラシードが言うように、鉄格子の内にいて語り続けるトムと、外にいて戦争など関係ないかのごとく暮らす我々と、いったいどちらが狂っているのかわからない。
記憶を語り続ける者を指弾する今の社会を、鋭く諷刺している結末だと言えよう。

また、2歳で自分の夢想を託す人格フィギスを作り、それを今でも覚えているトムは、弟のような特殊な感受性を持った人物ではないか、とも鐘下さんは話していた。
私は劇を見ながら、弟をフィギスにしてしまったのはトムなのであり、トムなくしては、弟が非日常の戦場に行くことはなかったのだろうと思った。幼時から、真の自分とは違う、フィギスという人格を弟に与え、育て続けたのはトムなのだ。芸術家と芸術作品。三島由紀夫の「班女」(実子と花子)や「豊饒の海」(本多と転生者)のような、そうしたトムと弟アンディ=フィギスの形成と関係が、物語の縦糸なのだろう。

その他、父親が建築業でビルを作る→近代のグローバリズムの象徴だということ、ラグビーボールはもうひとつの兵器だといった話を鐘下さんはされたのだが、つまり、この芝居には、ジェンダーも深く印づけられている。(……と、ダンナと話しながら帰ってきた)。

男らしさの発露としての、ラグビーの「ぶっ殺せ!」という雄叫びが、戦いに重ね合わされ、ラグビーを愛する父親は、ケガをしたリスを殺してやる方がよいと言い、開戦と同時にきわめて好戦的な人間となり、テレビの戦争報道に釘付けになる。
対する母親は、地方議会の人権派議員であり、フィギスが弱い動物を助けようとするのを手助けしていく優しい人間だが、戦争報道についてはテレビを消すことで、自分たちの目の前から排除することしかできない。
父のように強くなりたいと願うと同時に、人を大切にし、夢想を保持していこうとする。トムやアンディ=フィギスの形成には、こうした両親の関与が大きいはずなのだが、しかし、こうした父親・母親像はごくありふれている。誰もが、トムやフィギスになってもおかしくはないのだ。

飢えた難民の子どもの気持ちがわかり、イラクの少年兵の魂が入り込む弟フィギスを女優が演じ、弟が、そうしたフィギスの特殊な感受性を完全に失って、ごく普通の弟アンディになったとき、男優が演じる。
これは、特殊な感受性を持っていたフィギスだったときの弟は、まだ「本当の男」(強い・力・勝つ)ではなかった表象ではないか。感受性・やさしさを殺してこそ男になれる。父親の工事現場を、トムではなくアンディが引き継ぐのはその象徴。
(……というのがダンナの解釈。すごく面白い!)

だが、力で支配する=暴力は男だけが担うものではなくなりつつある。
トムをリンチする集団のリーダーを女優が演じ、わざわざ白いマスクと黒いTシャツに「♀」の印を入れ、「このアラブのホモ野郎」と叫んでいたのは、明らかに、アブグレイブ刑務所でイラク人虐待を行なった米兵の中に女性兵士が混じっていたこと、彼女たちが率先して写真を撮られて/撮らされていたことを模しているだろう。

湾岸以後、現在のジェンダー構成、「戦争・暴力とジェンダー」を、鐘下演出は描いていると言えるのかもしれない。
とにかく急いで原作を読まなくっちゃ。。

⇒まざあぐうすさんが、原作本に関するとても丁寧なブックレビューを書いておられ、TBさせていただきました。

※なお、本日(2005年8月27日)  10:00-12:00、広島アステールプラザ7階で、鐘下さんの戯曲講座(広島市文化財団主催)があるそう。当日受付でも間に合うとのアナウンスがありました。

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コメント

 トラックバックをありがとうございました。とても充実した記事の内容で、学ばせていただきました。

 わたしも観てみたいなあと思いました。
 ご覧になられた後の記事も楽しみにしています。

まざあぐうすさま、コメントありがとうございました。

ゆきとどいたブックレビューを拝読して、ますます原作を読まなくちゃ、と思っています。
これからもよろしくお願いします!

TBありがとうございます。

観客席に座らなければ解からない「何か」。
それをまだ芝居を観たことのない誰かに伝えるのは難しい。
この魅力が伝えられたらなあとつくづく思います。

おけいさま、コメントありがとうございます。
「弟の戦争」はすさまじかったですよね。
「パペット劇場ふらり旅」の記事からは、十分に観劇の魅力が伝わってきます。うらやましい!

「尺には尺を」、小倉まで行ってご覧になったのですね。
うちも、ダンナと娘が帰省のついでに新潟の小千谷で見ました。私は残念ながら広島にいてパス。ダンナたちが持ち帰ったパンフを眺めてましたが、おけいさんのレビューで、また想像をたくましくしてます。
娘は、劇自体はちょっとわからないところもあったようだけど、開演前のイエローヘルメッツが楽しかったようです。

父親役で出演した劇団うりんこの者です。素敵な批評ありがとうございます。我々もすごく参考になりました。広島での公演、しっかり記憶しております。搬入に苦労しましたが、沢山の方々にお手伝いいただき大変助かりました。今後ともよろしくお願いします。12月18日東京北トピアで公演します。機会がありましたらこちらもよろしくお願いします。

西尾さま、コメントありがとうございます。劇団の方においでいただけるなんて、とてもうれしいです。
しばらくこのブログが放置状態で、返事が遅くなり、たいへん失礼をいたしましたこと、どうぞお許しください。

「弟の戦争」、とにかく衝撃的でしたし、いい芝居です。
父親役をされていたのですね。両親と兄弟の関係が、劇の大きな軸になっていて、それがとてもよく表現されていました。

また、どうぞよろしくお願いいたします!!

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