「女性」というカテゴリーと女帝論
「女性天皇」を認めるかどうかを検討する「皇室典範に関する有識者会議」が設置されることになったそうだ。
この件についての朝日新聞HP上の記事と、今朝の朝刊(大阪本社13版)とで微妙にちがうところがある。
メンバーは、日本古代史や憲法などの学識経験者のほか、法律の専門家や財界人、女性、元官僚など、各界から幅広く選んだ。今後は月1回程度会合を開き、女性天皇を認めるかどうか、皇位継承順位をどうするか、結婚した女子の宮家の創設を認めるか、などについて意見を交わす。太字で示している「女性」の語が、朝刊では入っていたのだが、web版では削除されているのだ。
webにアップする段階で、ここに入れてはまずいと判断したのだろう。
たしかに、朝刊の書きようでは、「女性」は、「学識経験者」「法律の専門家」「財界人」「元官僚」などと同じカテゴリーの一つだということになり、つまり、「学識経験者」「法律の専門家」などはもっぱら男性だと言っていることになる。是正されるのは当然だ。
だが、政治家の失言・暴言がたいていそうであるように、この記事もまさにホンネの部分を表している。
有識者会議の構成メンバーの人事案について毎日新聞は次のように書く。
有識者懇の人選について、官邸筋は「政治、経済、法律、文化などの専門家に、女性も入れる。普通の政策マターでないから、座長は学識経験者が望ましい」(官邸筋)と話す。先の朝日の記事は、この「官邸筋」の人事の意図説明に依拠して作られたのだろう。つまり、よく言えば、組織の構成員のバランスをとるために、ホンネのところは女性をメンバーに入れたというアリバイのための「女性枠」であることを如実に表している。限られた「女性枠」でしか、女性は選ばれないということだ。
「有識者」のなかに女性は二人。つまり、この懇談会が女性に許した椅子は二つということなのだが、それを「女性枠」というホンネを使わないで言うと、次の毎日新聞の記事のようになる。
このほか岩男寿美子・武蔵工業大学教授(社会心理学)、緒方貞子・国際協力機構理事長ら社会情勢の変化や国際状況の動向に詳しい女性の専門家も参加。日本古代や西洋古典などの専門家も加わり、歴史的考証にも配慮する陣容となっている。女性が入っているのは専門家だからですよ、ということで、『物は言いよう』の添削例を見ているようだ。もちろん朝日朝刊の書き方より、ずっとこの方がいい。
だが、こうした毎日の書き方はホンネをオブラートにくるんだようなもので、岩男さんや緒方さんのような実力のある方でも「女性」のカテゴリー内で選ばれたのだということ、朝日の記事(それが依拠する「官邸筋」の話)こそが、この社会での女性の扱い方のホンネを露呈させたものなのだ、ということを忘れてはいけない。
なお、「女性天皇」については、中野忠志『女性天皇論』 (朝日選書)が、天皇制自体とこの問題とをよく整理していてわかりやすい。「冷淡な言い方になるが、制度上は、皇太子妃には、「お世継ぎ」誕生しか期待されてはいない」ということ、「男系男子の万世一系」は「女帝の排除」と「庶子の容認」がセットになっており、戦後「庶子の容認」が否定されたところから今日の問題が生じているというのだ。
また、ジェンダーの面から天皇制を考察している本としては、加納実紀代さんの『天皇制とジェンダー』がなんといっても必読書。「父なる天皇制」「母なる天皇制」についての考察が特に興味深い。
2冊とも、三島由紀夫についても若干触れている。
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コメント
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宮台真司さんと奥平康弘さんの「憲法再論」(平凡社新書)が女性天皇に触れていますね。確信犯的に反動化する(三島や北一輝を引用して)宮台さんの挑発に天皇を考える人間は答えないといけないでしょう。宮台さんには「新現実VOL2」の大塚英志さんによるインタビューもあります。
それと関礼子さんが女性天皇について調べておられると彼女の集中を受けた名大の人から聴きました。
投稿: y@taichung | 2004/12/29 01:58
「憲法対論」でした。すみません。
投稿: y@taichung | 2004/12/29 01:59
女性天皇については、別姓や女性兵士問題などと同様に、フェミニストの間でも意見が分かれるところのようです。
つまり、天皇や結婚や軍といった制度自体をとらえ直すべきだという考えと、制度の枠内での男女平等を求めるべきだという考えとで。
投稿: NAGI | 2004/12/30 11:26
どうもそのようですね。女性兵士論は福祉問題(フリーター、ニート含む)と並んで上野さんが考えていますね(いわゆるジェンダー平等論)。全部ある意味で「憲法」をめぐる問いになるのでしょう。
Linda K.Kerber No constitutional right to be ladies Hill and Wang 1998 Chapter 5 a constitutional right to be treated like American ladies 部分邦訳 リンダ・カーバー「憲法は女らしさを保障しない」『同志社アメリカ研究』35 。同じ号に上野千鶴子さんの「英霊になる権利を女にも?」
それと『季刊 運動 経験 2001夏 ②』「特集 女性天皇制と憲法改悪」。
投稿: y@taichung | 2004/12/30 13:55
上野さんの「英霊……」はよく引用されますね。佐藤文香さんのご本『軍事組織とジェンダー』も出版されました。
それでは、よいお年を!
投稿: NAGI | 2004/12/31 15:33