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2004/12/14

「ハウルの動く城」(3) ソフィー

一方、ソフィーにかけられた呪いは何だったのだろう。
もちろん直接には、ハウルを追う荒地の魔女が、ハウルと偶然にかかわったソフィーに向けた見せしめのようなものだった。

だが、ソフィーは、90歳の老婆に変えられても、存外驚いてはいない。意外に素直に運命を受け入れ、「前よりずっと服が似合っている」と言うし、「ソフィーばあさん」とも自称する。少女の頃から、歳に似合わない地味な服を着て、華やかな祭りの場に繰り出すこともせず、社交的で明るい妹を心中で羨望しているソフィーは、もともと自分の若さを不要なもののように感じ、早く歳をとってしまいたいといった願望があったように思える。欲望し、欲望される、若さをかかえていると、うまく他者と接することができないのだ。
「年寄りがこんなに身体が動かないものだとは思わなかった」という述懐は、早く枯れてしまいたい願望をいだいていたソフィーが、いざ老いてしまったときに身体的な不如意を感じて意外がっているようでもある。

あまりはっきりと描かれていなかったからよくわからないのだけれど、帽子屋を継ぐのも「長女」だからだと思っているみたいだし、ソフィーには死んだ「父の娘」として生きようという思いがあるのかもしれない。母親が、サリマンに強要されてソフィーの偵察に来たときに「再婚した」と告げるが、母が父から離れていくのと裏腹に、自分だけは父親を受け継ぐのだという思い。
男性たちとごく当たり前のように関わりあえる、彼女の目には華やかに映る、妹や母親に対する嫉妬と羨望と反感と。(母と妹の享楽的な顔だちと、ソフィーのそれとはあまりに違い、両者が異なった種であることを示している。)
そんななかで、かたくなに性的存在たることを拒絶して老婆のような恰好をして、帽子屋の地味な針仕事(他の女性がかぶる帽子に華やかな飾りを縫い付けているソフィーは、変身前のシンデレラのようでもある)に日々を過ごしていたソフィーの前に、まさに嵐のようにハウルが現れ出て心を動かし、次いで呪いによって老婆の姿にされたというわけだ。

それにしても、呪いが解けなければ、ソフィーは老婆から少女に戻ることはないはずなのだが、作中、ソフィーの外見は、何度も変わっている。
夜眠っているときに少女の姿に戻っているのは、ハウルも目撃している。睡眠時は意識の閾がはずれ、老成した彼女の本来の姿が現れるのかもしれないし、夢の中でハウルとの出会いを回想しているからこそ若いのかもしれない。だが、目を覚ましたときに即老婆の姿に変わることもあるが、少女のままのこともある。
また、褐色の髪の少女か、白髪で皺だらけ・腰の曲がった老婆か、という二極ではなく、灰髪でありながら背筋が伸びていたり、さまざまな年齢のソフィーの姿がスクリーンに映される。
だとすれば、この呪いは、ソフィーの内的な自己像が外見に現れ出るというものなのか。

(これまた倍賞千恵子の声は、境界なくなだらかに変化するさまざまな年齢層のソフィーを、たいへん苦労はしたのだろうけど出すことに成功していた。〈若いときのソフィー〉と〈老女ソフィー〉の二極の物語ではない以上、ソフィーの声を老若二人の女優(声優)が担当することは許されず、これはどうしたって一人の女性の声でなくてはならないのだ。専門の声優ならば、もっと自然なのかもしれない。また、若いときの声には多少ハリがない気もしたけれど、もともと少女のソフィー自体が老成しなかば隠遁しているような生活だったのだから、さほど気にはならない。そして、倍賞千恵子のキャリアならではの温かみがあるよい声だったと思う)。

であれば、自らの若さに目をそむけ、諦念と厭世とを抱え持ち、老いに近いところにいたソフィーにとっても、ハウルの動く城での体験は、生きる上での等身大の自分探しだったのだろう。

ソフィーは、自ら「ソフィーばあさん」と呼ぶ。誰にも欲望されることはないと納得できる老女の体を得て、初めて彼女は、自意識抜きで、他者に、異性に自然に関わりあうことができた。
「ハウルもこんなばあさんの心臓を取りはしないだろう」--そう思うことで、彼女はハウルの心臓である動く城に飛び込む勇気を持つ。そして性的身体を排除した年老いた掃除婦の姿で、ようやくハウルと平常心で接し、ハウルのミニチュアのようなマルクルとの生活やカルシファー相手の折衝により、ソフィーは自分のなかに他者と関わり合うことのできる力を見出していくのだ。

老いの地点から、他者を情熱的に愛することを学ぶ。(ソフィーとサリマンの対峙する場面は、ハウルをめぐっての二人の年長女性・母的存在の争いとなっていた)。また他者を気づかう気持ちやかけひき、他者から必要とされる体験をふむのである。
さらに戦争という極限状況にあり、ハウルの死の可能性に脅かされるなか、ようやく彼女は自らのなかのエロス、ハウルに対して若く満ちてくる情動を自然に受けとめ、肯定できるようになっていく。

後半はたしかに慌ただしかったが、二人の成長とロマンス(エロス、パッション)は、キッチリと描かれていた。
ハウルとソフィー。マルクルやヒン(原田大二郎の贅沢なつかい方!)、カブ、荒地の魔女(美輪明宏さま!)、カルシファーをも含めて、本来の自分の居場所・安住の地を探りあてる物語--それが「ハウルの動く城」のように思える。

「ハウルの動く城」
「ハウルの動く城」(2)ハウル

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コメント

ハウルの動く城は原作から随分と話が変わっているそうですね。
読みくらべると宮崎監督の考えが分かっておもしろいとか・・・・・・
かくいう私は見ていませんが^^;;


追伸 ラジオドラマの件、本当にありがとうございました!

彼の者さん、コメントありがとうございます!

残念ながら、私も原作は読んでいません。本屋に平積みになっているので気にはなっているのですが・・。
映画の「ハウル--」はどうも評価が分かれているようですね。学生に聞くと、女の子は「ハウル、かっこいー」と盛り上がってて、男の子はうーん、と言ってますよ、ということでした。

ラジオドラマの件……。うー、二日続きの忘年会でぼーっとしているので、違っていたらすみません。ホームページのあのすさまじいスパゲッティ&かき氷はどうみても愛知県(なんでや?)。てことは、豊明のMさんですね! わーい、ご来店、ありがとうございます。
脚本って、ラジオドラマだったのですか? 上演されたら教えてくださいね。

それから、お母様によろしく。

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