『山代巴』出版記念会
昨日、小坂裕子さんの『山代巴-中国山地に女の沈黙を破って-』の出版記念会に行きました(於 広島市まちづくり市民交流プラザ)。
小坂さんは、ジェンダー関係の出版やミニコミ紙を発刊している家族社のスタッフ。ということで、家族社のネットワークを駆使しての、パフォーマティブな会でした。司会は、家族社の高雄さん。
(1)民族太鼓のパフォーマンス
(2)挨拶 家族社代表 中村隆子さん
(3)入門・山代巴『山代巴文学紀行』藤川あやみさん(山代巴研究所)スライドと朗読
(4)特別講演 樋口恵子さん(評論家)「村の嫁さん、町の嫁さん」
(5)著者講演 小坂裕子さん「山代巴とフェミニズム」
私はここまで失礼してしまったのですが、このあと、パフォーマンスやフロアーからの「わたしが語る山代巴」などの企画があったようです。
以下、簡単な感想を。
(3)パワーポイントにより、山代巴の歩みがとてもわかりやすくまとめられていて、文学館等で常時視聴することができればよいなあ、と思わせる内容でした。
「山代巴研究所」は、非核自治体宣言をしている三良坂町の町民有志が、平和・人権学習のために作ったようです。戦争中に思想犯として三次女囚刑務所に入れられていた山代さんに対して、最初は「国賊」扱いしていた看守たちが次第に彼女に大きな信頼を寄せていった過程などを教えられました。
(4)樋口さんの講演は、樋口節炸裂!といった感じ。
「嫁学事始」と題して、決して「嫁」ではない「サザエさん」の話を枕に、絶滅の危機にある「嫁」が連綿と続いていることを、各地の例をあげつつ説かれました。今の世に、驚くような嫁差別の風習が残っているところが数多くあるようです。嫁に関する諺などをいくつもあげられましたが、「嫁は、10人家族のとろろ飯の給仕をしながら、一等最初に食べ終わらなくてはならない」というのはなかなかすごい。食いしん坊の私などとてもダメですなあ。また、結婚後初めて夫の実家に行ったときの嫁への仕打ちの数々にも驚かされました。やれやれ。本当に、身分の上下を問わず、日本社会に嫁問題はタテに貫通しているようです。
(5)小坂さんは、山代巴に対する人間性への共感と作品に感じる違和感の落差を説明されました。山代さんは、農村にある嫁姑問題を女性の人権を阻むものととらえ、抑圧の委譲・加害と被害の連鎖を断ち切らねばならないと考えました。そのために女性は自己表現力を磨き、発言力をつけねばならない、仲間をもたねばならないことを主張したのですが、小坂さんは、ここまでは山代さんの考えを支持できると言います。ですが、山代さんが、嫁姑問題の背後にある男性の問題・家父長制制度自体に踏み込んでいないことに、不満を感じたと言います。
そうした限界のために、山代さんの文学が、都市の女性たちに届かなかった。代表作である『荷車の歌』も、かわいそうな女の物語として男受けのよい作品であって、女性研究者が山代さんを評価していないと言います。(耳がいたい)。限界をふまえた上で、山代さんをフェミニズムの立場から評価していこうとする小坂さんの姿勢に、教えられました。
私自身も地域の文学を、もっと勉強していきたいと思います。
小坂さん、家族社のパワフルな力をもらった会でした。
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